俺の彼女は
「お前さぁ、最近彼女できたってホント?」
「何だよ、急に」
「その動揺の仕方はクロだな?」
「さあね」
「相手、どんな子? うちの学校? 同じクラス?」
「教えねえよ」
「やっぱりできたんじゃん、彼女。お前が女子と二人で歩いてるの見たって言うやつがいるんだよ」
「で、誰だったか聞いてないの?」
「彼女の方が帽子かぶってて顔見えなかったって。もしかして芸能人?」
「そんなわけないだろ」
「教えろよ」
「やだよ」
「言えない相手ってことか」
「……まあ……」
「マジで? 年上?」
「うん」
「いくつ上なんだよ?」
「……三か月」
「……三か月……ってタメじゃん。お前秋生まれだろ? 相手夏生まれってこと? 余裕の同学年じゃん」
「大雑把だな」
「細かいことはどうでもいいよ。お前に彼女ができたってことが重要なんだから。で、どこで知り合ったんだよ。どっちから?」
「向こうから。連絡先、交換してほしいって」
「マジで? お前に連絡先聞く女子いるの?」
「人のこと言えんだろ」
「最近って、いつから付き合ってんの?」
「まあ、最近だよ。半年前とか」
「それ最近じゃないじゃん」
「時が過ぎるのはあっという間なんだよ。お前とだべってる時間は長いけどな」
「俺にリア充発言するな。なんだよ、お前だけは俺の味方だと思ってたのに」
「味方になった覚えないけどな」
「どんな子? かわいい? 美人?」
「どちらかというと、かわいい」
「くうぅぅぅ、うらやましすぎる。写真ないの?」
「あるけど……」
「見せてみ」
「絶対イヤ」
「めっちゃ拒否るじゃん」
「だって顔知られたら、もうお前と恋バナできなくなるじゃん」
「え? なんで?」
「だって、いろいろ想像しちゃうだろ? キス顔とか、甘える仕草とか。その他いろいろいやらしいこと」
「バカ野郎、人の、しかも親友の彼女、そんな目で見ねえよ」
「あからさまに動揺するなよ」
「いいなあ、彼女。俺も高田さんと付き合いてー」
「……ふーん」
「何だよ。自分に彼女ができたら友達の片思いには無関心かよ」
「いや、そうではないが」
「どうせ俺には高嶺の花だよ。手の届かない存在だよ。そりゃ連絡先も交換してもらえないよ。まあこんな俺を、高田さんみたいな人が相手にするわけないよな。自分で連絡先も聞けないくせにさ。お前に連絡先書いた紙渡してもらうことしかできない、ヘタレ男なんて好きになるわけないよな。結局音沙汰なしだし。渡してくれたんだよな? 連絡先」
「……」
「聞いてる? 彼女のこと考えてない?」
「え? あ、うん、ごめん」
「もう少し気ぃ遣えよ」
「お前さ、その……高田さんのこと、本気なの?」
「何だよ。お前もやっぱり俺には不釣り合いだと思ってる? だから諦めろってか?」
「そうじゃないけど……」
「確かに俺と彼女は不釣り合いかもしれないけどさ、わかってるけどさ、そんなこと。でもずっと目で追いかけちゃうし、彼女のこともっと知りたいって思っちゃうし、話したいし、仲良くなりたいし。俺、本気で恋しちゃってるんだよ、高田さんに。この恋はもう誰にも止められないんだよ」
「彼女の、どこがそんなにいいわけ? だって、一度も話したこと、ないんだよな?」
「まあそうだけど……つまり、ひとめぼれってやつだよ」
「ほう、ひとめぼれ……」
「顔もスタイルも文句なし。勉強もできて運動もできて、すべてが完璧。何でもそつなくこなしてさ、何してても見とれちゃうんだよね」
「うん」
「大人っぽくて頼りがいがあって。みんなからも慕われて」
「うん」
「でも一番はさ、あの笑顔だよな。高田さんってすっごくクールなイメージなのに、笑った顔、めっちゃかわいいんだよね」
「うん」
「『うん』しか言わねえなあ。また彼女のこと考えてたな?」
「ん? うん。あ、ごめん。……えっと、見たんだ、笑ってるとこ?」
「うん、最近、初めて見た。高田さん廊下で、相手教室にいたから誰と話してるかわかんなかったけどさ、すっごく楽しそうで。めっちゃ可愛かった。あんなふうに笑うんだぁってびっくりした。また好きになったもん」
「へえ」
「たぶん石橋さんあたりだよな、話してたのって。仲いいし、部活も一緒だし。いいよなあ、女子は気軽に近づけて」
「……うん」
「もっとうらやましがれよ」
「十分うらやましがってるよ」
「うらやましいのかよ?」
「え?」
「お前も高田さんと仲良くしたいとか、思ってるわけ? 彼女いるくせに。チクるぞ、彼女に。……って俺、お前の彼女知らないじゃん。なあ、教えろよ、お前の彼女」
それは、絶対言えない。
好きになっちゃいけない人だから。
それは、半年前から始まった、秘密。