お飾り側妃になりましたが、ヒマなので王宮内でこっそり働きます! ~なのに、いつのまにか冷徹国王の溺愛に捕まりました~
「どこに行かれますの? 私は、ずっと陛下が来られるのをお待ちしておりましたのに」
 豪華な金の髪を(なび)かせ、しなやかな両手で王の右腕を絡めとっていくのは、後宮のリーフル宮に住む第一側妃グレイシアだ。豪奢な衣装を纏って現れた姿に、王が少し驚いたように目を見開いている。
「グレイシア。ああ、いつも無沙汰をしてすまない。だが、よくここがわかったな」
「あら? 第一妃の私が、後宮に陛下が来られて存じあげないはずがないではありませんか?」
 ずっとお待ちしておりましたのにとその身をすり寄せる姿は、さすがこの国一の美貌とたたえられるだけあって薔薇のような美しさだ。後宮長やメイドたちの視線も気にせず、「それに」と、魅惑的な()(たい)でそっと王へとしなだれかかっていく。
「父が、陛下がご覧になりたがっておられました我がエメルランドル公爵家の(せい)(れい)(せき)を先日持ってきてくださいましたの。大変貴重なものですし、本来門外不出の品ですから、長く私のもとに置いておくことはできませんわ。ですから――」
 どうか今宵は私と、と王に甘えながら笑いかける姿に、オリアナは息を呑んだ。
(待って! やっと話せるかと思ったのに!)
 たしかに、先祖に精霊を持つリージェンク・リル・フィール王国で、精霊石は貴重な品だ。各貴族の先祖に連なる火・水・土・風・光・闇の属性を持つ精霊が、子孫の守護のために遺したと言われている石だ。これがあれば、もし力を持たない者が生まれてもその血統の精霊を使えるし、大元の精霊が持っていた魔力の特長や大きさを知ることもできる。そのため忠誠を表すのに、自らの力を包み隠さず示すという意味合いで密かにその石を見せることもあるというが。
(半年も待った機会なのよ!)
 部屋から飛び出して声をかけようかとも思ったが、お渡りを言い渡された建物に複数の妃が住んでいる場合は、誰の部屋が選ばれたのかわからぬように、王が入室するまでは廊下に出るのを禁止されている。どうしよう――と、薄く開いた扉のそばで迷う。
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