お飾り側妃になりましたが、ヒマなので王宮内でこっそり働きます! ~なのに、いつのまにか冷徹国王の溺愛に捕まりました~
次の瞬間、王の低い声が響いた。
「――精霊石か。ならば代えがたい忠誠の証だ。仕方がない、今宵は予定を変更して第一妃の部屋へ行こう」
その言葉に、グレイシアの顔が嬉しげに輝いていく。
「ありがとうございます! できるだけ早く陛下にお伝えして、我が家の忠誠をぜひご覧になっていただきたいというのが、父の願いでしたのよ」
そのままグレイシアのはしゃいだ声が、王の足音とともに廊下を遠ざかっていく。
白い通路のぼんやりとした明かりの奥へ消えるふたりの背中を隙間から見つめながら、オリアナは扉の前でぺたんと座り込んでしまった。
俯いた顔にミルキーベージュの髪がかかり、床に垂れ下がっていく。
「……まさか、精霊石を持ち出されるなんて……ね」
つい呟いた部屋で動いているのは、窓から入ってきた風に揺らされるレースで作られた薄いすみれ色のカーテンだけだ。
もともと、後宮に王のお渡りが少ないというのは有名な事実だった。焦った家臣によって多くの側妃が集められたが、今でも変わりはない。
それだけに第一妃でありながら、いまだに正室として立后する気配のないグレイシアにしてみれば必死なのだろう。
「うん。仕方がないわよね。背が高くて田舎出身の私よりも、華やかで女性らしい公爵家出身のグレイシア様の方が、ライオネル様には似合っているし」
わかってはいるが、がっくりとしてしまうのは、つい先ほどまで待ち望んだ相手にやっと会えるかもしれないと思っていたからだろう。
白い御影石の床に座り込んで、はああと大きく溜め息をついた。
「まあ、私は、本来後宮に来る気なんてなかったのだし――」
あんなことさえなければ。
ぺたりと座り込んだなめらかな床の冷たさに、後宮に来ることが決まった半年以上前の冬が訪れた頃に感じた空気の寒々しさを思い出す。
ふっと閉じた瞼の裏に、故郷の男爵領のことが思い浮かんだ。
「――精霊石か。ならば代えがたい忠誠の証だ。仕方がない、今宵は予定を変更して第一妃の部屋へ行こう」
その言葉に、グレイシアの顔が嬉しげに輝いていく。
「ありがとうございます! できるだけ早く陛下にお伝えして、我が家の忠誠をぜひご覧になっていただきたいというのが、父の願いでしたのよ」
そのままグレイシアのはしゃいだ声が、王の足音とともに廊下を遠ざかっていく。
白い通路のぼんやりとした明かりの奥へ消えるふたりの背中を隙間から見つめながら、オリアナは扉の前でぺたんと座り込んでしまった。
俯いた顔にミルキーベージュの髪がかかり、床に垂れ下がっていく。
「……まさか、精霊石を持ち出されるなんて……ね」
つい呟いた部屋で動いているのは、窓から入ってきた風に揺らされるレースで作られた薄いすみれ色のカーテンだけだ。
もともと、後宮に王のお渡りが少ないというのは有名な事実だった。焦った家臣によって多くの側妃が集められたが、今でも変わりはない。
それだけに第一妃でありながら、いまだに正室として立后する気配のないグレイシアにしてみれば必死なのだろう。
「うん。仕方がないわよね。背が高くて田舎出身の私よりも、華やかで女性らしい公爵家出身のグレイシア様の方が、ライオネル様には似合っているし」
わかってはいるが、がっくりとしてしまうのは、つい先ほどまで待ち望んだ相手にやっと会えるかもしれないと思っていたからだろう。
白い御影石の床に座り込んで、はああと大きく溜め息をついた。
「まあ、私は、本来後宮に来る気なんてなかったのだし――」
あんなことさえなければ。
ぺたりと座り込んだなめらかな床の冷たさに、後宮に来ることが決まった半年以上前の冬が訪れた頃に感じた空気の寒々しさを思い出す。
ふっと閉じた瞼の裏に、故郷の男爵領のことが思い浮かんだ。