お飾り側妃になりましたが、ヒマなので王宮内でこっそり働きます! ~なのに、いつのまにか冷徹国王の溺愛に捕まりました~
もともとオリアナは、このリージェンク・リル・フィール王国の南東の端に位置するフォルウェインズ男爵家の生まれだった。
山には柔らかな風が吹き通り、優しい人々が暮らす小さな領地。
ほぼ名前だけの男爵家のため生活に余裕があったわけではないが、それでも父と母と妹の四人で、慎ましく暮らしていた。兄のように外国へ留学には行けなくても、自分と志の同じ幼馴染みが小さい頃に誘ってくれたおかげで、宮廷学や算術、語学などを学びながら過ごしていた。そんな穏やかな日常を突然、暴風雨が襲ったのは、見知らぬ男が持ってきた一枚の紙が発端だった。
『借金……!?』
座ったままの男が掲げた紙に目を白黒とさせながら、綴られた文章と持ち主とを交互に眺める。あまりにも驚いたからだが、ハッと周りを見回せば、オリアナだけでなく横にいる父や母も、妹でさえもが信じられないといった様子で男の顔を凝視しているではないか。
その前で、灰色の高価な上着を纏った男は、小さく笑いながらかぶっていた帽子を外した。
「そうです、フォルウェインズ男爵様。あなたは鞄の取り引きをされているご友人の保証人になっておられましたね?」
「それは、たしかにそうだが……!」
名前だけとはいえ男爵だ。商売を起こすための保証人になってほしいと、昔なじみに頼み込まれたというのは、オリアナも以前父から聞いていた。
「そのご友人が、先日工房もろとも土砂崩れに呑み込まれて亡くなられましてね。仕入れた革も倉庫にあった商品もすべてダメになってしまいましたので、未払いの代金の支払いを男爵様にお願いしたいのです」
男が語る内容に目を見開く。
たしかに、その友人が先日事故で亡くなったと父は口にしていた。
憔悴しきった様子に当時はそこまで考えなかったが、今渡された紙を見てみれば、書かれた金額は、男爵という体面だけをどうにか保っている貧乏なフォルウェインズ家に支払う余裕などあるはずもないもので――。
山には柔らかな風が吹き通り、優しい人々が暮らす小さな領地。
ほぼ名前だけの男爵家のため生活に余裕があったわけではないが、それでも父と母と妹の四人で、慎ましく暮らしていた。兄のように外国へ留学には行けなくても、自分と志の同じ幼馴染みが小さい頃に誘ってくれたおかげで、宮廷学や算術、語学などを学びながら過ごしていた。そんな穏やかな日常を突然、暴風雨が襲ったのは、見知らぬ男が持ってきた一枚の紙が発端だった。
『借金……!?』
座ったままの男が掲げた紙に目を白黒とさせながら、綴られた文章と持ち主とを交互に眺める。あまりにも驚いたからだが、ハッと周りを見回せば、オリアナだけでなく横にいる父や母も、妹でさえもが信じられないといった様子で男の顔を凝視しているではないか。
その前で、灰色の高価な上着を纏った男は、小さく笑いながらかぶっていた帽子を外した。
「そうです、フォルウェインズ男爵様。あなたは鞄の取り引きをされているご友人の保証人になっておられましたね?」
「それは、たしかにそうだが……!」
名前だけとはいえ男爵だ。商売を起こすための保証人になってほしいと、昔なじみに頼み込まれたというのは、オリアナも以前父から聞いていた。
「そのご友人が、先日工房もろとも土砂崩れに呑み込まれて亡くなられましてね。仕入れた革も倉庫にあった商品もすべてダメになってしまいましたので、未払いの代金の支払いを男爵様にお願いしたいのです」
男が語る内容に目を見開く。
たしかに、その友人が先日事故で亡くなったと父は口にしていた。
憔悴しきった様子に当時はそこまで考えなかったが、今渡された紙を見てみれば、書かれた金額は、男爵という体面だけをどうにか保っている貧乏なフォルウェインズ家に支払う余裕などあるはずもないもので――。