お飾り側妃になりましたが、ヒマなので王宮内でこっそり働きます! ~なのに、いつのまにか冷徹国王の溺愛に捕まりました~
「――というわけで」
 父と母が親戚に相談に行っている間、結局、あれこれと悩み抜いて駆け込んだのは、オリアナがずっと宮廷学の勉強のために通っていた近隣の子爵家の離れにあるルースの部屋だった。
 ルースは子爵家の親戚にあたる人で、過去には宮廷で高官をしていたらしい。病気の療養のためにこちらへ来てからは、子爵令息のセイジュと彼に誘われた幼馴染みのオリアナの先生をしてくれている。長い白髪を揺らし、年を刻んだ穏やかな顔で教える彼は、オリアナにとってとても信頼できる人物だった。
 だから、いわば、最後の頼みの綱とも言えるルースとセイジュを前に、書物だらけの中にあるテーブルへ身を乗り出すようにして、本題へと入る。
「なにか速攻で金になり、妹を安心させてやれるような働き口はないでしょうか!?」
「直球じゃな」
 あまりの勢いに相談されたルースの方が押されている。一緒にいたオリアナと同い年のセイジュも、短い飴色の髪の下で真面目そうな濃い茶色の瞳を瞬いた。ルースの括った白髪が後ろで少し揺れたが、迫ったオリアナの姿に必死さは伝わったのだろう。
 少しだけ瞳をさ迷わせた後、ルースは鍵のついた引き出しからじゃらりと音のする袋を取り出した。
「助ける金は――ここにある。だが、知る限りの名士をあたってくれと子爵様から預かったこの金貨を渡すのには、条件がついておる」
「条件?」
「ああ、後宮に入ることだ」
 重々しい様子で切り出された言葉に、オリアナは思わず瞬きすら忘れてしまう。
「後宮……」
「ああ。今の国王陛下は後宮へほとんど興味を示さないらしくてな。少しでも関心を持ってもらうために、宮廷から子爵様へ、地域随一の美女を差し出すようにという命令がこの金と一緒に来たそうなのじゃ」
 つまり、これはそのための支度金なのだろう。
 事情と金の出所はわかったが、まさか後宮とは思わず固まってしまったオリアナを、ルースが灰色の瞳で覗き込む。
「どうじゃ? お前の夢とは少し違うかもしれんが、これならまだ別の形で望みが叶う可能性もある」
 その言葉に、テーブルに置かれた金とルースの瞳を交互に見比べた。

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