お飾り側妃になりましたが、ヒマなので王宮内でこっそり働きます! ~なのに、いつのまにか冷徹国王の溺愛に捕まりました~
 後宮。突然の話に戸惑う。
 少しの沈黙が、ふたりの間に落ちる。
 しかし、その瞬間、そばで聞いていたセイジュがよく鍛えた腕をテーブルに下ろしてふたりの間に割り込んできた。
「反対です、ルース先生! オリアナを後宮になんて――」
 いつも明るい表情の彼だが、今は顔をしかめて、必死で止めようとしてくれている。彼とは長年机を並べてきたから、オリアナの望みをよく知っているのだ。
「たしかに父は後宮へ美女を差し出すように命じられていました! でも、オリアナをなんて――」
「セイジュ、まさかオリアナがこの地域随一の美女ではないと、そこを反論したいのか? だったらお前の目は節穴だぞ?」
「いや、違っ……! 俺が反対したいのはそこじゃなくて!」
 焦っている親友の姿に、だんだんと固まっていた頭の中が氷解していく。
「オリアナは、俺と一緒に官吏の試験を受けるのを目指していたんだ! それを、後宮へ行けだなんて――!」
 ゆっくりと頭が動きだし、オリアナは笑ってセイジュを見上げた。
「うん、わかるわ。私も自分がこの地域随一の美女だなんて、うぬぼれてはいないし」
「いや、だから俺が反対しているのはそこじゃなくて――!」
「いやいや、一番の美女は妹よ? 私は、言動だって女らしくはないもの。そう言いたいのよね?」
「いや、お前は、たまに仕草が妙に男前なだけで! 女性たちの手が届かない高いところにある物を取ってやったり、困っていれば何日でも相談に乗って、夫より頼りになるとか言われたりしているから! ただ、そういう意味で」
「でも――」
 にこっと笑ってセイジュの肩に手を置く。
「私だって、そう悪くはないでしょう?」
 その言葉で、オリアナの覚悟はセイジュに伝わったらしい。
「行くのか?」
< 9 / 20 >

この作品をシェア

pagetop