神様に何を誓ったか?

第4話


 彰の耳の付け根には、小さな穴があった。幼い頃に手術して、今は塞がっている。耳瘻孔(じろうこう)という病気だ。これは人の胎生期に発生する穴で、通常は成長過程で生まれる前に消えるが、稀にその穴が残ったまま生まれることがある。そしてこの穴は、魚のエラの名残りだという説がある。穴があるからといって必ず手術する必要はないが、彰の場合は泥で汚れた手で穴を触ったりして炎症になり、医者の判断で手術して穴を塞ぐことになったのだった。手術は成人の場合なら局所麻酔で行うが、彰は幼児だったため全身麻酔で手術をした。

 小学生のとき、彰は一緒に遊んでいた数人の友人にこの穴について話した。その内の一人が、彰を揶揄った。

「おい、みんな! 彰はエラ呼吸ができるらしいで! おもろいなぁ!」

 当時は友人同士馬鹿にし合って喧嘩したり、次の日には何事もなかったかのように遊んだりしていたので、彰はこのことを特別に気にしていないつもりだった。彰を馬鹿にした友人も、根はいい子だった。ただ、この耳瘻孔については、揶揄われて以来しばらく、彰は誰にも話さなかった。

 MJとメッセージをやり取りしているときに、彰は不意にこの耳瘻孔のことを思い出した。それを彼女に話してみると、

「あきら、さかな?」

という返信が来た。その後すぐに、魚のスタンプを連打してきた。MJは頭が良い。彰がちゃんと説明できていないのを察して、敢えて面白おかしく揶揄っている。だからこの日も、わざわざ待ち合わせ場所から少し離れた魚の絵の前に陣取ってみせたのだ。

 こちらを見つけて手をぶんぶんと振るMJを見つけ、彰は決意した。今日は“さかな”の詳細な説明をしてみせる。そしてそのためには、やはり通訳が必要だ。
 だが結局、“さかな”の話はおろか、MJが飛行機に酔ったことや日本の寒さに驚いていることすらも満足に聞き取れず、晩ごはんは何を食べたいかということすらも聞き出せない有り様だった。

 通訳係の降臨はまだかと、彰は自分のコミュニケーション能力の低さに呆れた。
 
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