シュガートリック




そう言った識くんの瞳が、どこか切なそうに揺れていた。

そんな表情を見るのが苦しくて、無意識に識くんの頬に手を伸ばす。


「……雪音?」

「っ、あ……ごめん、無意識で」

「……いいよ、落ち着く」


私の手に顔を預けて目を閉じる識くんに、手がどんどん熱くなって脈打つ。

目を開けてため息をついた識くんは、私の手を握って離れさせると。


「はぁ……ごめん、取り乱した」

「ううん、大丈夫」


落ち着いたのか謝ってきた識くんに笑って大丈夫だと返す。

ふぅ、ともう一度息をついた識くんを見つめる。


「…でも私、ちゃんと識くんの事見てるよ?」

「……」

「え……?」

「そういう意味じゃないけど……まあいいよ」


さっき言われたことに対して正直に返すと、一瞬ぽかんとした識くんに疑問の声が漏れてしまう。

すると呆れたように笑った識くんは、


「……ほんと、雪音からは目が離せない」


と優しい目をした。



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