シュガートリック




……いない。
もうそこには姿がなくて、ぼーっとそのまま立つ。

……っ、廊下にはまだいるかも。

そう思って壁に手を置きながら廊下に出ると、遠くの方で歩いている男の人を見つけた。


……っ!あの人かな。

遠くからだとよく見えなくて、そのままその人を眺めていると。

ふと、その人がこっちを振り返った。


その人は私に気づいて、軽く手を振ってきて。
顔は見えなかったけど、少し胸が苦しくなった。


……また、会いたい。



✻✻



話し終わって、私はふぅと息をつく。
これが私が人と目を合わせない理由と保健室が嫌いな理由だ。

落ち着いて話せたのは、識くんが私の手を握ってくれていたおかげだ。


「……誰だったんだろう、あの人」

「……」


ぼーっと天井を見つめながら呟く。

チラッと識くんの方を見ると、識くんはどこか目を見開いて放心状態だった。




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