Good day ! 3
「大和さん。さっきのお話、なんの事ですか?私のデスクワークがどうとか…」
帰りの車の中で、気になっていた事を聞いてみる。
「ああ、あれね。実はこの間、佐野さんと色々相談したんだ。休暇とか、産前地上勤務制度の事」
「産前…地上勤務?ですか?」
「うん。帰ったら詳しく話すよ」
マンションに戻ると、大和は恵真に資料を見せながら説明する。
「これがうちの社の、出産と育児に関する制度。まず育児休職制度は、最長で子どもが満3歳に達する月の月末まで取得可能だって。それとは別に育児休暇は、子どもの出生日から10週間を限度として、任意の日付で取得出来る。それとこれがさっき話してた、産前地上勤務制度」
恵真は、大和が指で差した項目を読む。
「妊娠後、出産特別休暇取得までの間、地上勤務に就ける制度?」
「そう。つまり乗務ではなくて、他の仕事をするんだ。佐野さんは、もし恵真が興味あるなら、川原さんと一緒に広報の仕事をやって欲しいと言っていた。あと、子どもを持つ社員や妊娠中の社員に向けて、交流会を企画したり」
へえー、と恵真は興味深く耳を傾ける。
「もちろん恵真の体調を見ながらだけどね。例えば俺が出社する時に合わせて車で一緒に行って、オフィスで少し仕事をする。帰りはタクシーで帰る。毎日ではなく、週に2、3回とか」
「それはとっても有り難いです。やっぱり一人でマンションに篭っていると、知らず知らずに気持ちが沈んでしまって」
「そうだよね。オフィスで誰かと話をするだけでも、良い気分転換になると思う」
「はい。でもいいのでしょうか?そんなわがままな働き方で…」
大和は笑って否定する。
「わがままなんかじゃないよ。言われただろう?恵真は女性パイロットとして、うちの社のロールモデルなんだ。結婚や妊娠を通しても、無理なくパイロットを続けられるように、会社も制度を整えていきたいって。だから恵真は、この先も他の女性パイロットが安心して出産に臨めるように、道を作って欲しい」
恵真は真剣な表情で頷く。
「分かりました。手探りですけど、私の経験が他の方に役立つように、頑張ってみます」
「ああ。頑張り過ぎないようにね。それと俺、来月、つまり明日からこの『短日数乗務制度』を申請してあるんだ。子どもの小学校3年生修了時まで、乗務日数を「約5割」「約7割」「約8割」の中から選択する事が出来る。俺は10月まで7割で申請したから、月間の乗務日数は14日程度になるよ」
ええー?!と恵真は驚く。
「そ、そんな、大丈夫なんですか?」
「ん?まあ、貯金ならそこそこあるよ」
「そうではなくて。大和さんみたいな優秀なキャプテンが、現場に出るのが少なくなるなんて…」
すると大和は、恵真の両手を握って真っ直ぐに見つめる。
「恵真。キャプテンの代わりはいくらでもいる。でも恵真の夫は俺一人だ。お腹の子の父親も、俺だけだ。そうだろう?」
「でも、せっかくここまで積み上げて来た大和さんのキャリアが…。飛行時間だって減ってしまうし」
「何言ってるの?俺の幸せは、恵真と子ども達と一緒に過ごす事だよ。キャリアなんて、比べ物にもならない」
そう言ってから、まあでも…と、少し視線を外して笑う。
「キャプテンの資格は維持出来るように、腕を落とさないよう頑張らないとな。恵真、うちにいる間、一緒に勉強しようか」
「え、いいの?」
「ああ。勘が鈍らないように、一緒にシミュレーションしよう」
うん!と恵真は嬉しそうに笑う。
「じゃあまず、ウイングローからやる?」
ニヤッと笑う大和に、恵真の笑顔は一瞬にして消えた。
「それはヤダ!」
「なんでだよ?あのシミュレーションで恵真もコツを掴めただろ?」
「そうだけど。あんまりやると、クロスウインドランディングの度に思い出しちゃうんだもん」
「あはは!恵真、コックピットでそんな事考えてるんだ」
「もう!だからやりません」
プイッと横を向く恵真を、大和は優しく抱き寄せる。
「恵真。パイロットの勉強も一緒にしよう。そして赤ちゃんを迎える準備も一緒にしよう。俺はいつだって、恵真と赤ちゃん達と一緒にいる」
「大和さん…」
恵真は微笑んで頷いた。
帰りの車の中で、気になっていた事を聞いてみる。
「ああ、あれね。実はこの間、佐野さんと色々相談したんだ。休暇とか、産前地上勤務制度の事」
「産前…地上勤務?ですか?」
「うん。帰ったら詳しく話すよ」
マンションに戻ると、大和は恵真に資料を見せながら説明する。
「これがうちの社の、出産と育児に関する制度。まず育児休職制度は、最長で子どもが満3歳に達する月の月末まで取得可能だって。それとは別に育児休暇は、子どもの出生日から10週間を限度として、任意の日付で取得出来る。それとこれがさっき話してた、産前地上勤務制度」
恵真は、大和が指で差した項目を読む。
「妊娠後、出産特別休暇取得までの間、地上勤務に就ける制度?」
「そう。つまり乗務ではなくて、他の仕事をするんだ。佐野さんは、もし恵真が興味あるなら、川原さんと一緒に広報の仕事をやって欲しいと言っていた。あと、子どもを持つ社員や妊娠中の社員に向けて、交流会を企画したり」
へえー、と恵真は興味深く耳を傾ける。
「もちろん恵真の体調を見ながらだけどね。例えば俺が出社する時に合わせて車で一緒に行って、オフィスで少し仕事をする。帰りはタクシーで帰る。毎日ではなく、週に2、3回とか」
「それはとっても有り難いです。やっぱり一人でマンションに篭っていると、知らず知らずに気持ちが沈んでしまって」
「そうだよね。オフィスで誰かと話をするだけでも、良い気分転換になると思う」
「はい。でもいいのでしょうか?そんなわがままな働き方で…」
大和は笑って否定する。
「わがままなんかじゃないよ。言われただろう?恵真は女性パイロットとして、うちの社のロールモデルなんだ。結婚や妊娠を通しても、無理なくパイロットを続けられるように、会社も制度を整えていきたいって。だから恵真は、この先も他の女性パイロットが安心して出産に臨めるように、道を作って欲しい」
恵真は真剣な表情で頷く。
「分かりました。手探りですけど、私の経験が他の方に役立つように、頑張ってみます」
「ああ。頑張り過ぎないようにね。それと俺、来月、つまり明日からこの『短日数乗務制度』を申請してあるんだ。子どもの小学校3年生修了時まで、乗務日数を「約5割」「約7割」「約8割」の中から選択する事が出来る。俺は10月まで7割で申請したから、月間の乗務日数は14日程度になるよ」
ええー?!と恵真は驚く。
「そ、そんな、大丈夫なんですか?」
「ん?まあ、貯金ならそこそこあるよ」
「そうではなくて。大和さんみたいな優秀なキャプテンが、現場に出るのが少なくなるなんて…」
すると大和は、恵真の両手を握って真っ直ぐに見つめる。
「恵真。キャプテンの代わりはいくらでもいる。でも恵真の夫は俺一人だ。お腹の子の父親も、俺だけだ。そうだろう?」
「でも、せっかくここまで積み上げて来た大和さんのキャリアが…。飛行時間だって減ってしまうし」
「何言ってるの?俺の幸せは、恵真と子ども達と一緒に過ごす事だよ。キャリアなんて、比べ物にもならない」
そう言ってから、まあでも…と、少し視線を外して笑う。
「キャプテンの資格は維持出来るように、腕を落とさないよう頑張らないとな。恵真、うちにいる間、一緒に勉強しようか」
「え、いいの?」
「ああ。勘が鈍らないように、一緒にシミュレーションしよう」
うん!と恵真は嬉しそうに笑う。
「じゃあまず、ウイングローからやる?」
ニヤッと笑う大和に、恵真の笑顔は一瞬にして消えた。
「それはヤダ!」
「なんでだよ?あのシミュレーションで恵真もコツを掴めただろ?」
「そうだけど。あんまりやると、クロスウインドランディングの度に思い出しちゃうんだもん」
「あはは!恵真、コックピットでそんな事考えてるんだ」
「もう!だからやりません」
プイッと横を向く恵真を、大和は優しく抱き寄せる。
「恵真。パイロットの勉強も一緒にしよう。そして赤ちゃんを迎える準備も一緒にしよう。俺はいつだって、恵真と赤ちゃん達と一緒にいる」
「大和さん…」
恵真は微笑んで頷いた。