Good day ! 3
妊娠8ヶ月目に入り、恵真は少しずつ仕事の整理を始めた。

子育て交流会も、参加出来るのはあと1回だけだ。

自分が抜ければ、今までのように毎月企画出来なくなるかもしれないし、お便りも廃止になるだろう。

(仕方ないか。他の皆さんは、ただでさえ普段の業務で忙しいものね。気軽に頼む訳にもいかないし)

恵真は、自分が最後に関われる交流会を良いものにしようと、準備に励んだ。

そして迎えた交流会当日。

いつもの顔ぶれに、新しい人も加えて、和やかにおしゃべりが弾む。

今日は、使わなくなった子ども服や絵本、おもちゃの交換会も行われ、皆はテーブルに並べられた品を、ワイワイと選んでいく。

「可愛いー!このお洋服、ほんとに頂いてもいいの?」
「もちろん、もらって。捨てちゃうよりも、知ってる人に使ってもらえる方が私も嬉しいもの」
「ありがとう!」

そんな会話を聞いて、恵真も嬉しくなった。

他にも、夏休みの子連れ旅行の話やオススメのホテルなどを紹介し合い、あっという間に時間になる。

「では名残り惜しいですが、今日はこの辺で」

川原が締めの言葉を言い、恵真も机の上を片付ける。

と、ふいに佐々木が立ち上がり、藤崎さん!と呼んだ。

「え?あ、はい!」

慌てて恵真も立ち上がる。

「これ、ここにいるみんなから藤崎さんに」
「…はい?」

何が起きているのか分からないまま、恵真は近づいてきた佐々木から、色紙と小さな箱を受け取る。

「この色紙は、みんなからのメッセージ。それとこのプレゼントは、赤ちゃん用の枕なの。ふわふわのバンドが付いていて、ママの腕にはめれば、授乳の時にも使えるのよ。あ、ちゃんと2つあるからね」
「ええー?!プ、プレゼントですか?」

戸惑う恵真に、皆は笑顔で口々に言う。

「その赤ちゃん枕、オススメよ。うちの子も、それがあると良く寝たもの」
「そうそう、うちも。それに、授乳の時は汗を吸ってくれて、ママも赤ちゃんも快適だし。何より、赤ちゃんの頭の形がきれいに丸くなるのがいいわよね」
「そう!それがないと、向き癖がついちゃうところだったわ」

すると、一人のママが声を上げる。

「早く教えてよー!私、知らなくて。うちの子、見事に向き癖がついちゃったのよー」

まあまあ、と周りの皆が慰める。

「だから藤崎さん。あなたはどうか使ってね!」
「あ、は、はい!あの、皆様、本当にありがとうございます」

恵真は深々と頭を下げる。
思いも寄らない皆の心遣いに、嬉しくて涙が込み上げてきた。

「こちらこそ!交流会を企画してくれてありがとう。おかげでたくさんの人と知り合えたわ」
「手書きのお便りも、役に立つ情報ばかりで、永久保存版よね」
「藤崎さん、どうか元気な赤ちゃんを。嬉しい報告と可愛い写真を、楽しみにしてるわね!」

ありがとうございます、と恵真は声を詰まらせながらお礼を言った。
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