例えばその夕焼けがどれだけ綺麗だとしても




坂月は自問自答するように呟いて、暫く口を噤んだ。

何と声を掛けてあげれば、正解なのか、分からない。
かと言って、坂月が慰めを必要としているようには見えない。
彼の中で、正解は既に出ていて、この問題は、過去のものとして片付いているようだった。


そんな中、沙耶の頭の中に甦るのは、嘉納と車内で話した時の事。



『――その女の為に、全てを失う覚悟があるのかって訊いたら、諒の奴、何て答えたと思う?』


『『勿論。だって全ては、あいつの為にあったんだ』だと。』


あの時感じた激しく切ない気持ちが、再びやってきて、沙耶の胸は苦しくなる。


――うう、考えない、身体に悪いっ!


それをぶんぶん首を振って払いのけた辺りで、坂月に言った。


「あの、でも、良かったです。坂月さんに、また、会えて。あれで最後になっちゃわなくて。」

本心だった。

沙耶は、石垣と同様、坂月にも、沢山助けられてきた。

あんな別れ方は、正直したくなかった。


「坂月さんは、いつも私の困ってる時に、現れてくれますね。」


そしてついうっかりこぼしてしまった。


「…………秋元さん。何か今困ってることでも?」
「………………あ、じゃ、私はこれで「ドライブに行きませんか?」」
「う、あの「ほら、車の音が聞こえます、ここ道を塞いでいて邪魔なので早く。」」


さぁさぁ、と白のベンツに押し込まれながら、なんとなく流れがまずい方向へと行っている気がする沙耶。


――そういえば、坂月さんは、あれだけを言いに、ここまではるばるやってきたのかな。


ふと、感じた疑問は、口には出さなかった。
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