例えばその夕焼けがどれだけ綺麗だとしても
坂月の言う『提案』に、沙耶は瞬くのも忘れ、固まる。
こっちに、戻ってくる。ということは――
「秘書になる、ということです。」
沙耶の思考を読んだかのようなタイミングで、しれっと坂月が答えた。
相変わらず、外の景色は真っ暗で。
明りといえば、ヘッドライトから漏れる光で。
相手の顔がなんとか見える。
でも細かな表情までは分からない。
「む……」
ぽろり、一時思考回路停止していた沙耶の口から出てくる言葉は勿論。
「無理無理無理、何なになに、何言っちゃってんですか。秘書とか、あはは。あり得ないし、もう辞めたんですし。それに必要ないじゃないですか、石垣の会社じゃないんだし、坂月さんには、お手本のような秘書がいましたし!」
お経のような、断固拒否のセリフ。
「諒は、新たに会社を設立していて、あちこち世界を飛び回っていますよ。そして、私の秘書の井上は、残念ながら先月寿退社してしまいました。」
「え……」
坂月の秘書の井上は美人だが決して若くはなかった筈だ。
結婚していなかったことも知らなかったし、結婚したことも勿論知らなかった。
さらに、石垣が新しい会社をつくっていたなんて。
初めて知った事実に、沙耶はたじろぐ。
「秘書になってくれたら、秋元家の会社は秋元さんのもののまま、こちらで面倒を見ます。どうです?いい条件だと思いませんか?給料も依然と変わりませんよ。」
「あ、う……」
逃げ道をどんどん塞がれていってしまっているような沙耶は、言葉が出てこない。
「問題は、どちらも秘書を必要としているということです。秋元さん、私と諒、どちらの秘書になりますか?」
暗がりなのに、坂月の目がキラと怪しく光った気がした。
沙耶はさながら追い込み漁のように、網に追い込まれている状況下で、思い出していた。
目の前のこの男は、策士だったんだ、と。