例えばその夕焼けがどれだけ綺麗だとしても
例えば最初からやり直したとしても
朝が来てしまった。
「うーーー……ん………」
相変わらず、レースのみのカーテンから零れる日差しは眩しい。
そして、ここ数日、朝晩はやや冷え込むものの、確実に太陽の光は強さを増してきている。
春は、直ぐそこまで来ていた。
この時期は、うだるような暑さはなく、凍えるような寒さもない。
眠りを妨げる厄介な季節は過ぎ、爽やかにまどろむことが出来る最高の陽気――
―ーの、筈だったのだが。
――一睡もできなかった…………
座った姿勢のまま、布団にいる沙耶の目の下には、漫画みたいな隈ができている。
「うーーーーーー…………ん……」
頭を抱えて、昨晩からずっとこの調子で、沙耶自身どうにかなりそうだ。
溜息と同じで、何度唸ってみても、胸につかえた塊は出て行ってくれない。
「うーーーーーーーー……ん」
「うるさい!」
夜中にはぐっすりだった隣の愚弟も、眩しい光とうめき声のダブル攻撃により、流石に目を覚ましたようで、突然がばっと起き上がる。
「あのさ!姉ちゃん、うっさいんだけど。何なの?その呪いみたいな低いうんうんは!?誰に呪いかけてんの――?うぉ!」
そして、沙耶の鉄拳がお約束のように、駿をノックアウトさせた。
「姉の心、弟知らず、か……」
パタリと倒れた弟を気にする素振りすらない彼女の視線は、一晩中変わらない。
ただただ目の前にある空(くう)を見つめて、再び呪い、もとい、うめき声を再開する沙耶。
その心は、いつになく、病んでいる。