例えばその夕焼けがどれだけ綺麗だとしても
昨晩のドライブは、中々刺激的だった。
坂月の提示した究極の選択に、勿論沙耶は答えることなどできる訳もなく。
沈黙の続く中、行き着いた先は、沙耶も坂月も知らない場所だった。
どうしてそこで止まったのかと言うと、行き止まりだったからだ。
「道、わかってたんじゃなかったんですか……」
田舎の行き止まりは、本当に行き止まりだ。
道幅はどんどん狭くなっていっていたし、今前に立ちはだかって、通せんぼしているのは、鬱蒼とした森だ。いや、山だろうか。何しろ暗くて全容は分からない。
「ドライブですから。」
坂月は、しれっとした顔で、そう言い放つと、身体を反転させ、真っ暗な後方に目をやった。
沙耶は、この立派なカーナビは何のためにあるんだろうと呆れていた。
「っとう、え、嘘でしょーーーーーーーーーーー……!!!!!?????」
その瞬間に、坂月が急にバックを始めたものだから、沙耶は生きた心地がしなかった。しかもスピードが出ている。真っ暗で見えないところでのバックの速度ではない。
無事に広い所に出て、平屋が見えて来た時には、遭難者が帰還した瞬間のような、言いようのない懐かしさ迄がこみ上げてきた。時間としては数時間、自分としては、数日間。もしくはもう一生帰ってこれないのではと薄っすら思っていたからだ。
そして家の外には、ライト片手に突っ立って、ベンツを驚きの表情で見つめる駿が居た。
「あれ、駿君だ。はは、秋元さんを心配して探してたのかな。」
隣で爽やかに笑う誘拐犯をぎぎっと睨んで。
「坂月さん、さっきの話ですけど――」
「大丈夫です、直ぐじゃなくて。できるだけ早い方が良いですけど。今の秋元さんは、このドライブみたいに、出口が見つかってないと思いますから。だから――」
口を尖らせたままの沙耶に、坂月はふいに顔を近づけた。
「やり直してみませんか、最初から。」
「――え……?」
「出逢った頃から。」
余りに近くで見つめられ、一瞬反応に遅れる沙耶。
尖っていた口は、ぽかんと開いてしまった。