例えばその夕焼けがどれだけ綺麗だとしても
「――なんて。」
そんな沙耶を、坂月は、眉を下げて見つめる。
「あれだけの事をしておきながら、今更、そんなチャンスが欲しいだなんて、おこがましいですよね。」
「え、あ……」
ス、と身を引く彼に、沙耶は何故だかひどく心揺さぶられた。
「ただ、秘書としては、本当に戻ってきてもらいたいです。貴女は有能な方なので。」
肩を竦め、まるで今のは冗談で、本題はこっちなのだという態度をとっているが、沙耶にはどうしてもさっきの坂月の発言の方が本音に思えて仕方ない。
「――坂月さ……」
「そういえば、石垣を狙った犯人も、予定通り捕まえましたので安心してくださいね。」
「あ、そう――なんですね、良かった……」
沙耶の呼びかけを遮るようにして、新情報を持ち出す坂月。
「それから――石垣は石垣で、別口で秋元さんに接触してくるのではと思いますけど――もしかしてもう会ったりしました?」
「!…………えっと……まぁ……」
思い出したくない出来事に、心の準備なしに触れられて、沙耶は動揺を隠せない。
「何か、あったんですね?」
「いやいやいや、何も……ない、です。」
坂月の探る様な視線から逃げるように、沙耶は目を伏せた。
みるみる内、頬が熱を帯びていく。
これではいくら暗い車内とはいえ、何かがあったのは一目瞭然だし、坂月が相手となれば、全て白状させられるのも時間の問題だ。
「――それじゃ、良い返事お待ちしています。」
だが、沙耶の予想に反して坂月はそれ以上の追及をせずに、車のロックを解除した。
「あ、えっと、坂月さん……あの……」
「おやすみなさい。」
「……おやすみ、なさい。」
急によそよそしく冷たい態度になった坂月を不思議に思いながらも、沙耶は言い掛けた言葉を噤み、軽く頭を下げてから、車を降りる。
と同時に。
「姉ちゃん!馬鹿野郎!坂月さんといるならそう言えって!くそ心配したわ!そして、坂月さんと会うなら俺も会いたかったわ!」
外で待ち構えていた駿がぎゃあぎゃあと姉を叱りつつ、坂月に笑顔を向けた。