例えばその夕焼けがどれだけ綺麗だとしても
「いってきまぁーす。」
間延びした声で、靴を履いた駿が、玄関に立つ。
「はい、お弁当。あ、そうだ、今日私お母さんの所行ってくるからね。」
「りょ。じゃ、俺も帰り寄るわ。」
「ん。まぁ、無理せず。」
「おう。じゃ。」
「いってらっしゃい。」
弁当を渡して、駿が出て行くのを見送った後。
「っはぁーーーーーー!」
沙耶は盛大に息を吐いた。
駿も年頃だ。
彼女くらい居るのかもしれないし、居たのかもしれない。
勉強に専念して欲しいとは思うが、人様に迷惑を掛けたりしなければ、青春を謳歌してくれて構わない。
但し――
「それを私に押し付けるなっつーの。」
今はそれ所じゃない。
まだ、秋元家が自分の物になったという実感もないし、これからどうするかが決まっていない。
母には、まだこの状況を伝えていない。
元々心臓が悪いのだ。こんなビッグなニュースを受け止められるだろうか。
自分自身ですら、地に足がついていないような感覚なのだ。
――今日様子を見に行ってみて、調子が良さそうであれば、やんわりと伝えてみよう。
沙耶はそんな風に考えていた。