例えばその夕焼けがどれだけ綺麗だとしても
黄金色の光が、竹林の間を縫うように差し込んでいる。
少し前まで無一文だった女が一人、目の前に跪いている男を見つめたまま、無言でその場に立ち尽くしている。
二人は過去に同じ時間を過ごし、そして別々の道を歩んでいた。
それが再び交差して、互いの名前を知ったのはつい数か月前のこと。
最悪の形で再会を果たした二人は、今漸く距離を縮めようとしていた。
泣き腫らした顔で、固まっている女の名前は、秋元沙耶。
そして、男の名前は、石垣諒。
先刻プロポーズしたばかりなのだが。
「――沙耶?」
その返事は、30秒経過した今も、もらえていない。
いや、反応すら、返ってきていない。
「聞いてる?」
痺れを切らした石垣が、首を傾げながら沙耶の顔を覗き込む。
「った!」
その瞬間、息を止めていたらしい沙耶が、謎の一言を発し、石垣に取られていた手を振り払った。
「――た?」
ずざぁ、と地面から砂埃が上がる程後ずさりした沙耶を、益々困惑した表情で見つめる石垣。
みるみる内、顔を真っ赤にした沙耶は、酸素を求める金魚のように口をパクパクさせた後。
「む、、、無理!」
そう叫ぶと、唖然とする石垣に背を向けて、走り去ってしまった。
「……え」
残された石垣は、へなへなと脱力し、後ろ手をつきながら、空を仰ぐ。
そして。
「そんなの、アリかよ。」
苦虫を噛み潰したように、そう言い捨てた。