例えばその夕焼けがどれだけ綺麗だとしても


「最低なのは、お前の方だろ。」


じ、と見つめられ、目を逸らす事が許されない。

さっきまで、小馬鹿にしたように笑っていた石垣が、今はもう真剣な表情で、沙耶に迫る。

言葉に微かに混じる、拗ねているような音。

何を言わんとしてるのかは、沙耶にだって分かる。


「う……だ、だって……と、突然過ぎて……!」

急激に熱くなってきた顔を沙耶が隠そうと、咄嗟に俯いたのと、引き寄せられたのは同時だった。

押し付けられたスーツからは、いつもの香りが強くする。



「い、しがき?」



力強く抱き締められ、沙耶はその余裕のなさに、思わず彼の名前を呼んだ。


「……お願いだから……俺から逃げるのだけはやめてくれ。心臓が持たない。」


耳元で囁かれた石垣のコトバは、何故だか痛くて。
どうしてだか、沙耶のココロを切なくさせる。


「…………うん。」


気付けば、素直に口が開く。


「……ごめん。」


陽が沈む、この時間。

肌寒い風と。

心地良いと感じてしまう、この体温。

冬と春の狭間のようだ、と沙耶は思った。

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