例えばその夕焼けがどれだけ綺麗だとしても



「昔って……」


どれくらい、と訊こうとして、石垣ははっと息を呑む。


「ーーここで、か?」


沙耶の肩を掴む力が、僅かに弱くなる。


「竹林で?」



目の前の彼女は、頷かない。


言うつもりではなかったけれど、うっかり言ってしまった。そんな顔をして、固まっている。

思い切り後悔しているという表情を浮かべ、石垣からそっと身体を離した。


それこそが、答えだった。


「二重って……まさか、楓からもプロポーズされていたのか?」


予想だにしていなかった事実に、動揺を隠せない石垣は、更に最悪の想定を振り払えなかった。



「お前、楓が好きなのか?」

< 56 / 75 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop