例えばその夕焼けがどれだけ綺麗だとしても
「ばっ…な、んでそういうことになんのよぉ!?」

沙耶は俯きかけた顔をがばっと上げると、少し怒った様な口調でそう言った。
その仕草に、石垣は一番強く張っていた部分の力がどっと抜けたのを感じる。
とりあえず、最悪の事態は免れている様だ。

でもーー。

「返事は?」

沙耶は、開いていた口を今度はまたきゅっと結んで、答えようとしない。

「してないのか…?」

その事実にチクリと苛立ちを感じるも、自分自身もまだもらっていないくらいだ。
そういえば、沙耶はいつ、その事実を知ったのだろう。
何も思い出していない時から、一体どのくらい。
二つの約束が重なっていたことを。
そして、それを聞いたのは、恐らく、いや確実に当事者。坂月から聞いたに違いない。
それ以前のゴタゴタが多過ぎた。
色々奔走して、漸く沙耶との約束について、かすかな希望の光が見えてきたというのに。
今度こそ、絶対離さないと固く心に決めたのに。
目の前の女はいつだって思い通りにならない。

< 57 / 75 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop