例えばその夕焼けがどれだけ綺麗だとしても
「………お父さんは……優しかったよね。」
弱音を吐かない娘は、突然父の話を持ち出した。
相変わらずこちらに近付こうとはせず、俯いて、床ばかり見ている。
「——そうね。とっても。」
沙苗の目に、少しも霞むことのない、最愛の人が蘇り、思わず笑みが零れる。
「怒ったとこ、見たことない。」
「そうねぇ。」
「お母さんも、怒らない。」
「そう?そうねぇ。そんなに怒っても、仕方ないものねぇ。」
「なのに――」
幼い子供のように、沙耶は自分の服の裾をぎゅっと掴んで。
「どうして、私はこんななの?」
少し震える声で、自問するように呟いた。