例えばその夕焼けがどれだけ綺麗だとしても

「ーーーー」

母の言葉はあまりに意外で、沙耶の戸惑いは声にならず、視線だけが、それは本当なのかと早苗に問うている。

「あら、知らなかった?和俊さんは、とても強い人だったのよ?」

「っでも!でも、お父さんは……優しくて怒ったことなんか一度もなくて、人を傷つけるのが嫌で、誰かと衝突したりとか、そういうの、ずっと避けてたじゃない……」

沙耶の父の記憶は、遠くない。
父は本当にいつも穏やかで優しかったのだ。

「いつも……本家の言いなりだったじゃない……」


だから、沙耶は我慢してきたのだ。
細やかな幸せの中だけは、争いが生じないようにと。

「沙耶……」



項垂れる娘に、母は優しく呼びかけた。



「正面から斬り込むだけが、闘う方法とは、限らないものよ。」

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