恋をしているのは内緒~報われないと知っているから~
「心美ちゃんはさぁ、間違いなく相楽くん派だよね?」

 しばしぼうっと意識を飛ばしていたら後ろから声をかけられた。
 驚いて勢いよく振り向いた先には浦田さんがいて、ニヤニヤとした意味深な笑みを浮かべつつ私を観察していた。

石上(いしがみ)くんも人気だけど……」

 我が社にはもうひとり、甘いマスクの男性社員が存在する。私や相楽くんより二年先輩にあたるエンジニアの石上さんだ。
 爽やか王子様系の相楽くんと、硬派でインテリ系の石上さんのふたりで、女性社員からの人気を二分(にぶん)していると言っても過言ではない。

「心美ちゃんは相楽くん狙いだったのね」

「いやいや、狙ってないですよ。地味な私がアピールしても無理に決まってるじゃないですか」
 
 本心を隠しつつ、手をブンブンと大げさに横に振って否定をしておく。
 相楽くんの恋人の座を本気で狙っている女性がほかにたくさんいるのは知っているから、小心者の私は大っぴらには公言できずにいる。
 
「全然地味じゃないよ。肌も髪もつやつやだし、小顔で目がパッチリしていてかわいいわ。心美ちゃんは清楚系美人だから相楽くんとお似合いだと思う」

「美人じゃないですけど、褒めてもらってありがとうございます。でも相楽くんはみんなの王子様だから、さすがにハードルが高いですよ」

 相楽くんに恋をしても無謀なのは承知している。
 そもそも競争率が高いし、目立たなくて取り柄のない私が恋人に立候補しても彼の目に留まるわけがないもの。
 この気持ちを恋だと認めなければ、少しは気が楽なのだろう。イケメン王子様に対するただの憧れだと自分に言い聞かせたいところだけれど、それ以上の特別な感情を抱いているとすでにはっきりとした自覚があるから時すでに遅しだ。
 おそらくずっと片思いのままだと理解しつつも、幸い私は同期という立場で彼と気さくに話せているし、それだけで今は十分だと思えている。

< 3 / 26 >

この作品をシェア

pagetop