魔法の使えない不良品伯爵令嬢、魔導公爵に溺愛される2

動き出す思惑

 父親に呼ばれ、書斎に集まったヴィクターとビビアナ。そんな二人を、アイゼンはにこやかに出迎えた。
「待っていたぞ。愛しい息子と娘よ」
「父さん、話って何だい?」
 訊ねるヴィクターを余所に、ビビアナの方を向き、アイゼンは言葉を発した。
「ビビアナ、お前は魔導公爵を諦めろと言われて諦められるか?」
「セシリアスタを諦めろって? 妻になれって言ったの、父さまが言い出したことじゃんか。あの人にはあたしが一番相応しいって言い続けてたでしょ」
「そうだ、お前こそ、セシリアスタ・ユグドラスに相応しい」
「なら、あの人はあたしのものだ」
 そう答えるビビアナに頷き、そして、ヴィクターの方に視線を向ける。
「単刀直入に聞く。お前はあの娘を諦められるか?」
「無理です。彼女こそ、僕に相応しい女性です」
 即答するヴィクターに、アイゼンは頷いた。ならば、と言葉を続ける。
「お前達の手でどうにかしなさい。私は魔導公爵に目を付けられた。だがお前達は、お前達のしたいように動きなさい」
「本当!? じゃああの女をやっちゃってもいいの!?」
「それはならん。彼女にはヴィクターの妻になってもらわねばならんからな」
「ちぇっ!」
 残念がるビビアナを余所に、ヴィクターは歓喜に打ち震えていた。
「父さん、本当にいいんですか?」
「お前の好きにしなさい。魔導公爵とビビアナの婚姻が決まれば、後はその娘を好きにしていい。ビビアナも、義姉になる者へはきちんと接するように」
「はーい」
 そんな父と妹を余所に、ヴィクターは気持ちが昂っていった。
「こうしちゃいられない! 早く彼女を迎えに行かなければっ」
「どうやって? 絶対に警戒されてるよ?」
 ビビアナの言葉に、ヴィクターは悩む。そう、あのサロン以降、招待状を送っても返事は返って来ないのだ。
「その為に、これがある」
 アイゼンの取り出したものに、二人は目を輝かせる。ライトグリーンの毛。呪詛の書かれた布が巻かれた、カーバンクルの毛だった。
「そうか、その手があったか! 流石だよ父さん!」
 ありがとう! と告げるヴィクターに、アイゼンは微笑んだ。
「これで、あの娘をこの屋敷に招待しなさい。そうすれば、いずれ彼女の方から魔導公爵を捨てるだろう」
「それまであたしは待つことになるのかよ……ま、いっか! 大事な『お義姉さん』と楽しく過ごせばいいし!」
 あははははは! と笑うビビアナ。それを楽しそうに見守るアイゼン。そして、呪詛の書かれた布に包まれたカーバンクルの毛を大切そうに持つヴィクター。ユスターク家の邪な思惑が、気付かない所で動き出そうとしていた。
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