魔法の使えない不良品伯爵令嬢、魔導公爵に溺愛される2
レティシアの覚悟
ユスターク家から戻り、早速、調査隊を編成させ調査をさせようとしたセシリアスタ。ふと、デスクに魔法便が届いているのが見えた。ユグドラス邸から届いたそれに、嫌な予感がしつつ、セシリアスタは封を開けた。
「ん? どうした、セシル」
調査隊の許可手続きを取ろうとしていたエドワースが振り向き、セシリアスタの表情を伺う。酷く青褪めた表情をする親友に驚き、すぐさま手の中の手紙を覗き込む。
「おいおい……これ完全な脅迫だろ」
「ッ、レティシア!」
「あっ、おいセシル!」
ロングコートを翻し、急ぎユグドラス邸へとエンチャント魔法を使い、窓から跳躍するセシリアスタ。すぐさまそれを追いかけようとするエドワースだったが、突如執務室へ入ってきたイザークに止められた。
「おや、どうしたの? そんなに焦った表情して」
「イザーク、お前に構っている場合じゃねえんだよ! レティシア嬢がユスターク家に行っちまったんだ!」
エドワースの言葉に、イザークは目を細め、セシリアスタ同様にエンチャント魔法を使い窓から飛び降りた。その後をエドワースが追う。
「エド。説明を」
「ああ!」
急ぎセシリアスタの後を追う二人。エドワースは、手紙の内容をイザークに伝え出した。
数刻前。
「突然すみませんわね」
「いえ、メルヴィー様が来てくださって嬉しいです」
エドワースからの手紙が王都のタウンハウスに届き、急遽ユグドラス邸にメルヴィーが遊びに来た。嬉しさに満面の笑みを浮かべるレティシアに、メルヴィーもやぶさかではない表情を浮かべた。
「そういえば、あのカーバンクルはどうしてますの?」
客間に案内し、出された紅茶を飲みながらメルヴィーは訊ねる。すると、すぐ足下に駆け寄り、膝の上にピョンと飛び乗った。
「まあ、可愛らしいですわね!」
「ええ、だいぶ元気になりました」
「まだこの大きさからして、成獣ではないみたいですわね」
ひょい、と抱え上げ、メルヴィーは答える。確かに、成獣としては小さい。まだ子どもなのだろう。レティシアは微笑みながら、近況を話す。
「その子、食欲旺盛なんです。おかわりもしちゃうくらいで」
「まあ、育ち盛りというものですわね」
そっと膝に抱き、メルヴィーに優しく撫でられる。するとカーバンクルはうっとりとした表情を浮かべていた。
「メルヴィー様、お体の方はどうですか?」
「問題ありませんわ。古代魔法には、治癒の魔法もあったのですね」
「そうみたいです。といっても、私が使えるのはそのくらいしか今の所はありませんが……」
困った表情を向けるレティシアに、メルヴィーは「そんなことありませんわ」と話す。
「古代魔法が使えるだけでも素晴らしいことですわ。誇りをお持ちになってくださいな」
「……ありがとう、ございます」
そう励まされ、レティシアは微笑んだ。メルヴィーと友達になれて、本当に良かったと、心からそう思えた。
「……あら?」
「どうかしましたか?」
メルヴィーの声に、レティシアはメルヴィーの視線の先を見つめる。メルヴィーが撫でていたカーバンクルの様子が、どこかおかしい。慌てて、後ろで様子を見ていたカイラとアティカも駆け寄った。
「カーバンクル? どうしたの?」
「キュウウ……」
息が荒い。どこか苦しそうにしているカーバンクルに、レティシアは駆け寄り治癒の魔法をかける。レティシアの体とカーバンクルの体が光り、スッと光が収まっていく。だが、カーバンクルは今も苦しそうだった。
「何故? 回復が効かない……」
「もしかして、呪いでは?」
メルヴィーの言葉に、レティシアは首を傾げた。
「呪い?」
「ええ。一子相伝の呪術ですわ。対象の体の一部を用いて、その者を呪うんですの。……この国では、ユスターク家しか使えませんわ」
その言葉に、前回の招待状を思いだした。あの時の毛は、この子のものだった。だとしたら、まだユスターク家にこの子の毛が残っていてもおかしくはない――。
「レティシア様」
その時、窓から静かに誰かが入ってきた。
「誰!?」
そこに居たのは、ディオスだった。
「ディオスさん……カーバンクルの不調は、あなた方の所為ですか!?」
「そうなります。ああ、皆さん動かないでくださいね。カーバンクルの命が惜しかったら、動くのはお薦めしません」
「っ」
脅すディオスに、カイラもアティカも動けない。全員が動かないことを確認すると、ディオスはにっこりと笑顔を向けた。
「レティシア様、お迎えにあがりました」
「……私を?」
「ええ。ヴィクター様の、後の妻としてです」
まだ諦めていなかったのかと思うレティシアだが、下手に刺激すると、カーバンクルの命が危ない。レティシアはキッと睨んだ。
「そんなに睨まないでください。私はただの遣いとしてきただけですので」
「その前に、カーバンクルを治してください」
レティシアは要求するが、ディオスは首を縦には振らなかった。
「貴女様が大人しく来てくだされば、屋敷にて解呪いたします」
「レティシア様、確実に罠ですわ」
そう断言するメルヴィーに、ディオスは言葉を発する。
「そう思いたければどうぞご自由に。ですが急がないと、カーバンクルが死んでしまいますよ?」
「っ」
この場に居る四人全員が、息を呑む。このままでは、カーバンクルの命が危険だ――。
「私が行けば、カーバンクルの解呪を必ずしてくださるんですね?」
「お嬢様!?」
カイラの悲痛な声が耳に入る。だが、カーバンクルをこれ以上苦しめたくはない。レティシアはメルヴィーの膝からカーバンクルを抱きかかえると、ディオスの側に歩き出した。
「本当に、約束を守ってくださるんですね?」
「約束いたしましょう。必ずや、解呪いたします」
静かに頭を垂れるディオスに、レティシアは冷たく言葉を放つ。
「ならば、早く連れて行ってください。これ以上、カーバンクルが苦しむ姿は見たくありません」
「レティシア様!」
叫ぶメルヴィーに振り返り、レティシアは「後は頼みます」と微笑む。抱きかかえたカーバンクルが、か細い声で鳴いた。
エンチャント魔法で強化したディオスに担がれ、ユグドラス邸の裏口に停められた馬車へと入れられる。するとすぐに、馬車が動き出した。
セシル様、どうかお許しください。必ず、必ず戻ってきますから――。苦しむカーバンクルをそっと抱き寄せながら、レティシアは強く思った。
「ん? どうした、セシル」
調査隊の許可手続きを取ろうとしていたエドワースが振り向き、セシリアスタの表情を伺う。酷く青褪めた表情をする親友に驚き、すぐさま手の中の手紙を覗き込む。
「おいおい……これ完全な脅迫だろ」
「ッ、レティシア!」
「あっ、おいセシル!」
ロングコートを翻し、急ぎユグドラス邸へとエンチャント魔法を使い、窓から跳躍するセシリアスタ。すぐさまそれを追いかけようとするエドワースだったが、突如執務室へ入ってきたイザークに止められた。
「おや、どうしたの? そんなに焦った表情して」
「イザーク、お前に構っている場合じゃねえんだよ! レティシア嬢がユスターク家に行っちまったんだ!」
エドワースの言葉に、イザークは目を細め、セシリアスタ同様にエンチャント魔法を使い窓から飛び降りた。その後をエドワースが追う。
「エド。説明を」
「ああ!」
急ぎセシリアスタの後を追う二人。エドワースは、手紙の内容をイザークに伝え出した。
数刻前。
「突然すみませんわね」
「いえ、メルヴィー様が来てくださって嬉しいです」
エドワースからの手紙が王都のタウンハウスに届き、急遽ユグドラス邸にメルヴィーが遊びに来た。嬉しさに満面の笑みを浮かべるレティシアに、メルヴィーもやぶさかではない表情を浮かべた。
「そういえば、あのカーバンクルはどうしてますの?」
客間に案内し、出された紅茶を飲みながらメルヴィーは訊ねる。すると、すぐ足下に駆け寄り、膝の上にピョンと飛び乗った。
「まあ、可愛らしいですわね!」
「ええ、だいぶ元気になりました」
「まだこの大きさからして、成獣ではないみたいですわね」
ひょい、と抱え上げ、メルヴィーは答える。確かに、成獣としては小さい。まだ子どもなのだろう。レティシアは微笑みながら、近況を話す。
「その子、食欲旺盛なんです。おかわりもしちゃうくらいで」
「まあ、育ち盛りというものですわね」
そっと膝に抱き、メルヴィーに優しく撫でられる。するとカーバンクルはうっとりとした表情を浮かべていた。
「メルヴィー様、お体の方はどうですか?」
「問題ありませんわ。古代魔法には、治癒の魔法もあったのですね」
「そうみたいです。といっても、私が使えるのはそのくらいしか今の所はありませんが……」
困った表情を向けるレティシアに、メルヴィーは「そんなことありませんわ」と話す。
「古代魔法が使えるだけでも素晴らしいことですわ。誇りをお持ちになってくださいな」
「……ありがとう、ございます」
そう励まされ、レティシアは微笑んだ。メルヴィーと友達になれて、本当に良かったと、心からそう思えた。
「……あら?」
「どうかしましたか?」
メルヴィーの声に、レティシアはメルヴィーの視線の先を見つめる。メルヴィーが撫でていたカーバンクルの様子が、どこかおかしい。慌てて、後ろで様子を見ていたカイラとアティカも駆け寄った。
「カーバンクル? どうしたの?」
「キュウウ……」
息が荒い。どこか苦しそうにしているカーバンクルに、レティシアは駆け寄り治癒の魔法をかける。レティシアの体とカーバンクルの体が光り、スッと光が収まっていく。だが、カーバンクルは今も苦しそうだった。
「何故? 回復が効かない……」
「もしかして、呪いでは?」
メルヴィーの言葉に、レティシアは首を傾げた。
「呪い?」
「ええ。一子相伝の呪術ですわ。対象の体の一部を用いて、その者を呪うんですの。……この国では、ユスターク家しか使えませんわ」
その言葉に、前回の招待状を思いだした。あの時の毛は、この子のものだった。だとしたら、まだユスターク家にこの子の毛が残っていてもおかしくはない――。
「レティシア様」
その時、窓から静かに誰かが入ってきた。
「誰!?」
そこに居たのは、ディオスだった。
「ディオスさん……カーバンクルの不調は、あなた方の所為ですか!?」
「そうなります。ああ、皆さん動かないでくださいね。カーバンクルの命が惜しかったら、動くのはお薦めしません」
「っ」
脅すディオスに、カイラもアティカも動けない。全員が動かないことを確認すると、ディオスはにっこりと笑顔を向けた。
「レティシア様、お迎えにあがりました」
「……私を?」
「ええ。ヴィクター様の、後の妻としてです」
まだ諦めていなかったのかと思うレティシアだが、下手に刺激すると、カーバンクルの命が危ない。レティシアはキッと睨んだ。
「そんなに睨まないでください。私はただの遣いとしてきただけですので」
「その前に、カーバンクルを治してください」
レティシアは要求するが、ディオスは首を縦には振らなかった。
「貴女様が大人しく来てくだされば、屋敷にて解呪いたします」
「レティシア様、確実に罠ですわ」
そう断言するメルヴィーに、ディオスは言葉を発する。
「そう思いたければどうぞご自由に。ですが急がないと、カーバンクルが死んでしまいますよ?」
「っ」
この場に居る四人全員が、息を呑む。このままでは、カーバンクルの命が危険だ――。
「私が行けば、カーバンクルの解呪を必ずしてくださるんですね?」
「お嬢様!?」
カイラの悲痛な声が耳に入る。だが、カーバンクルをこれ以上苦しめたくはない。レティシアはメルヴィーの膝からカーバンクルを抱きかかえると、ディオスの側に歩き出した。
「本当に、約束を守ってくださるんですね?」
「約束いたしましょう。必ずや、解呪いたします」
静かに頭を垂れるディオスに、レティシアは冷たく言葉を放つ。
「ならば、早く連れて行ってください。これ以上、カーバンクルが苦しむ姿は見たくありません」
「レティシア様!」
叫ぶメルヴィーに振り返り、レティシアは「後は頼みます」と微笑む。抱きかかえたカーバンクルが、か細い声で鳴いた。
エンチャント魔法で強化したディオスに担がれ、ユグドラス邸の裏口に停められた馬車へと入れられる。するとすぐに、馬車が動き出した。
セシル様、どうかお許しください。必ず、必ず戻ってきますから――。苦しむカーバンクルをそっと抱き寄せながら、レティシアは強く思った。