魔法の使えない不良品伯爵令嬢、魔導公爵に溺愛される2
戻ってきた日常
「ん、んぅ……」
ゆっくりと瞼を持ち上げ目を覚ますと、そこは見慣れた天蓋だった。白いレースが幾重にもかかったベッドは、セシリアスタのものだ。すぐ隣に人の気配を感じ、急いで振り返る。そこには、静かに眠るセシリアスタの寝顔があった。
(セシル様……)
恐らく、セシリアスタの腕の中で大泣きした後、安心しきって眠ってしまったのだろう。泣いてからの記憶がないことからしてそうに違いない――。レティシアは静かに寝息を立てるセシリアスタの顔を眺めながら、小さく微笑んだ。
「……お慕いしております。セシル様」
そう小さな声で囁くと、急に寝ていた筈のセシリアスタに抱き締められた。
「きゃっ! せ、セシル様!?」
「寝起き早々に煽るんじゃない……襲ってしまうぞ?」
耳元で寝起き独特の低音な声で囁かれ、ゾクゾクと甘い痺れが腰から背中にかけて駆け上がっていく。レティシアは背を仰け反らせた。
「ん? どうした、レティシア」
「セシル様の、意地悪……起きてたんですね」
「いや、寝ていたよ。だが五日ぶりの君の温もりだ。何時までも感じていたくて眠りは浅くなるさ」
苦笑しながら答えるセシリアスタに、レティシアはぎゅっとセシリアスタの胸元に縋り付いた。
「レティシア?」
「……襲って、くださらないのですか?」
耳まで真っ赤に染めながら見上げるレティシアに、セシリアスタは目を瞬かせ、そしてすぐに口角を上げた。
「君が煽るなら、お望みどおりにしてあげよう」
顔を耳元に寄せ、囁く。まだ早朝、二人の愛を育む時間は十分にある。レティシアはそっと顔を寄せ、セシリアスタと唇を重ねた。
「お嬢様、おはようございますううううう!」
朝、部屋に戻り涙目のカイラから挨拶を受ける。レティシアは「おはよう」と微笑んだ。
「おはようございます。レティシアお嬢様」
「おはよう、アティカ」
「キュウ!」
とてとてと近付き、レティシアの足に擦り寄ってきたカールにも「おはよう」と挨拶をする。
「ささっ、お風呂に入りましょう!」
カイラに背中を押されながら、バスルームに向かう。五日ぶりの自室の浴室も、凄く懐かしく感じてしまう。
「ああっ! お嬢様の髪から艶がなくなってる! 痛まないうちにケアしなきゃ!!」
わたわたとカイラが髪を洗ってくれている間、自分で体を擦る。クォーク家にいた時からそうしていたことが、まさかユスターク家に監禁されている時にも役に立つとは思わなかったことに思わず笑みが零れた。
「お嬢様、どうしましたか?」
「ううん。何でもないわ」
髪は昔からカイラにして貰っていたから、自分ではうまくいかなかったのは残念だったなと、密かに思ったレティシアだった。
「香油も用意していなかったなんて……ユスタークの家のものは何を考えていたのでしょうか……」
独り言ちるアティカに、レティシアは苦笑した。
「香油は用意されていたのだけど、使いたくなかったの。アティカの用意してくれた香油が一番のお気に入りだから」
「レティシアお嬢様……光栄です」
鏡越しに微笑むアティカを眺めながら、髪に香油を塗って貰う。髪を梳かれる心地も、普段以上にとても良かった。短くなってしまった髪をハーフアップにし、今日は淡いラベンダー色のバブルドレスに袖を通し部屋を出る。タイミングを合わせたかのようにセシリアスタとばったり会い、微笑み合った。
「おはようございます、セシル様」
「おはよう。レティシア」
少し前まで共にいたとしても、挨拶だけは欠かさない。そっと近づくと、肩を抱かれる。そのまま食堂に行き、朝食をとった。
「今日のお仕事は何をなさるのですか?」
「先日のユスターク家に関しての調査と捜索、尋問になるだろうな」
「捜索、ですか?」
まだ何かあるのだろうか――。そう思ったレティシアに気付いたセシリアスタは、溜息を吐きながら答える。
「ユスターク家の従者、ディオスの捜索だ。拘束していたのにも関わらず、精鋭部隊を気絶させて逃げだした」
ディオスの逃走。それは驚きだった。
「自警団も含めて捜索にあたらせているが、見つかるかは五分五分だな」
「そうなんですね……」
苦しむカールを使い、脅しをしてきたディオス。一体、何処に逃げたのだろうか――。
「ユスターク家に関しては尋問をする。カーバンクルの処遇もその時決めるさ」
「カールの処遇も、ですか?」
「ああ。人為的に引き離されたとはいえ、保護区の聖獣だ。今後どうするか、王宮内で話し合う」
カールともお別れになってしまうのかと思うと、少し寂しい――。そう感じるレティシアに、床で食事をしていたカールが飛び乗り頬を摺り寄せてきた。
「カール……ありがとう」
「……レティシアが望むなら、このまま屋敷で保護出来ないか申し上げてみるよ」
「本当ですか!」
セシリアスタの言葉に、レティシアは喜んだ。カールと離れなくても済むかもしれない。その可能性が少しでも出たことが嬉しかった。レティシアはセシリアスタに「ありがとうございます!」と礼を述べると、カールを目一杯撫でた。
ゆっくりと瞼を持ち上げ目を覚ますと、そこは見慣れた天蓋だった。白いレースが幾重にもかかったベッドは、セシリアスタのものだ。すぐ隣に人の気配を感じ、急いで振り返る。そこには、静かに眠るセシリアスタの寝顔があった。
(セシル様……)
恐らく、セシリアスタの腕の中で大泣きした後、安心しきって眠ってしまったのだろう。泣いてからの記憶がないことからしてそうに違いない――。レティシアは静かに寝息を立てるセシリアスタの顔を眺めながら、小さく微笑んだ。
「……お慕いしております。セシル様」
そう小さな声で囁くと、急に寝ていた筈のセシリアスタに抱き締められた。
「きゃっ! せ、セシル様!?」
「寝起き早々に煽るんじゃない……襲ってしまうぞ?」
耳元で寝起き独特の低音な声で囁かれ、ゾクゾクと甘い痺れが腰から背中にかけて駆け上がっていく。レティシアは背を仰け反らせた。
「ん? どうした、レティシア」
「セシル様の、意地悪……起きてたんですね」
「いや、寝ていたよ。だが五日ぶりの君の温もりだ。何時までも感じていたくて眠りは浅くなるさ」
苦笑しながら答えるセシリアスタに、レティシアはぎゅっとセシリアスタの胸元に縋り付いた。
「レティシア?」
「……襲って、くださらないのですか?」
耳まで真っ赤に染めながら見上げるレティシアに、セシリアスタは目を瞬かせ、そしてすぐに口角を上げた。
「君が煽るなら、お望みどおりにしてあげよう」
顔を耳元に寄せ、囁く。まだ早朝、二人の愛を育む時間は十分にある。レティシアはそっと顔を寄せ、セシリアスタと唇を重ねた。
「お嬢様、おはようございますううううう!」
朝、部屋に戻り涙目のカイラから挨拶を受ける。レティシアは「おはよう」と微笑んだ。
「おはようございます。レティシアお嬢様」
「おはよう、アティカ」
「キュウ!」
とてとてと近付き、レティシアの足に擦り寄ってきたカールにも「おはよう」と挨拶をする。
「ささっ、お風呂に入りましょう!」
カイラに背中を押されながら、バスルームに向かう。五日ぶりの自室の浴室も、凄く懐かしく感じてしまう。
「ああっ! お嬢様の髪から艶がなくなってる! 痛まないうちにケアしなきゃ!!」
わたわたとカイラが髪を洗ってくれている間、自分で体を擦る。クォーク家にいた時からそうしていたことが、まさかユスターク家に監禁されている時にも役に立つとは思わなかったことに思わず笑みが零れた。
「お嬢様、どうしましたか?」
「ううん。何でもないわ」
髪は昔からカイラにして貰っていたから、自分ではうまくいかなかったのは残念だったなと、密かに思ったレティシアだった。
「香油も用意していなかったなんて……ユスタークの家のものは何を考えていたのでしょうか……」
独り言ちるアティカに、レティシアは苦笑した。
「香油は用意されていたのだけど、使いたくなかったの。アティカの用意してくれた香油が一番のお気に入りだから」
「レティシアお嬢様……光栄です」
鏡越しに微笑むアティカを眺めながら、髪に香油を塗って貰う。髪を梳かれる心地も、普段以上にとても良かった。短くなってしまった髪をハーフアップにし、今日は淡いラベンダー色のバブルドレスに袖を通し部屋を出る。タイミングを合わせたかのようにセシリアスタとばったり会い、微笑み合った。
「おはようございます、セシル様」
「おはよう。レティシア」
少し前まで共にいたとしても、挨拶だけは欠かさない。そっと近づくと、肩を抱かれる。そのまま食堂に行き、朝食をとった。
「今日のお仕事は何をなさるのですか?」
「先日のユスターク家に関しての調査と捜索、尋問になるだろうな」
「捜索、ですか?」
まだ何かあるのだろうか――。そう思ったレティシアに気付いたセシリアスタは、溜息を吐きながら答える。
「ユスターク家の従者、ディオスの捜索だ。拘束していたのにも関わらず、精鋭部隊を気絶させて逃げだした」
ディオスの逃走。それは驚きだった。
「自警団も含めて捜索にあたらせているが、見つかるかは五分五分だな」
「そうなんですね……」
苦しむカールを使い、脅しをしてきたディオス。一体、何処に逃げたのだろうか――。
「ユスターク家に関しては尋問をする。カーバンクルの処遇もその時決めるさ」
「カールの処遇も、ですか?」
「ああ。人為的に引き離されたとはいえ、保護区の聖獣だ。今後どうするか、王宮内で話し合う」
カールともお別れになってしまうのかと思うと、少し寂しい――。そう感じるレティシアに、床で食事をしていたカールが飛び乗り頬を摺り寄せてきた。
「カール……ありがとう」
「……レティシアが望むなら、このまま屋敷で保護出来ないか申し上げてみるよ」
「本当ですか!」
セシリアスタの言葉に、レティシアは喜んだ。カールと離れなくても済むかもしれない。その可能性が少しでも出たことが嬉しかった。レティシアはセシリアスタに「ありがとうございます!」と礼を述べると、カールを目一杯撫でた。