魔法の使えない不良品伯爵令嬢、魔導公爵に溺愛される2
尋問
セシリアスタは、トレスト領の保護区内でも最奥にあるカーバンクルの生息地跡に来ていた。エドワースの言った通り、一部分だけ草も何も生えていない箇所がある。そっとその場にしゃがみ、手を添える。魔力残滓は既に薄くなってしまっているが、微かに感じられた。
「それにしてもよ、よく見に来ないで魔力残滓を探知してユスターク家の悪事の証拠なんて掴んだな」
「馬鹿言え。そんなこと出来る訳ないだろ。だからこうして今ここに来ているんだ」
その言葉に、エドワースは「へ?」と口を開けた。
「いやだって、昨日イザークそう言ってただろ。魔導公爵ならその位出来るって」
「いやあ、噓も方便ってやつだよ」
言いながら照れ笑いするイザークに、エドワースは拳骨をお見舞いした。
「くそっ、騙された!」
「勝手に騙されるお前もどうかと思うがな」
「う……」
セシリアスタの一言に口を噤むエドワース。そっと地面の土を手に取り、呪文を唱える。すると、魔法陣が淡い光を帯びながら浮かび上がった。
「やはり、呪具の作成に用いる魔法陣だな」
「そうだね……」
セシリアスタの魔法で浮かび上がった魔法陣を、持っていた紙に書き記していくエドワース。その横で、イザークはセシリアスタに言葉をかける。
「触媒が何だったかは調べることは出来るかい?」
「土の中に血痕が残ってさえいれば出来る」
「そっか。となると、あれとかそうかな」
イザークの指差す所には魔法陣の隅で輝く丸い斑点があった。魔法陣の模様とは違うそれに、セシリアスタは土を取り別の呪文を囁く。持ち上げた土が白い光に包まれると、宙にカーバンクルの面影が映し出された。
「当たりだな……この土は持っていく。血液が付着しているから証拠品になる」
「おう。こっちも魔法陣、写し終わったぜ」
エドワースは紙を仕舞い、持っていた袋に土を移す。魔法陣とカーバンクルの血痕、そしてユスターク家全員の魔力残滓を確認した。これで尋問の証拠は揃った。セシリアスタが立ちあがると、エドワースとイザークはセシリアスタの側に寄った。セシリアスタが呪文を唱えると、瞬時にその場から三人の姿は消えていた。
王宮から遠く離れた離宮。そこに、罪を犯した貴族達が収容される収容所がある。そのすぐ横には、精鋭部隊の駐屯地が置かれている。保護区から瞬間転移の魔法で戻ってきたセシリアスタとエドワース、イザークは収容所に入り、見張りの精鋭隊から挨拶を受ける。そして牢屋の中で俯き項垂れているアイゼンの牢へと歩み寄った。
「アイゼン伯爵、出ろ」
牢の鍵を開け、精鋭隊がアイゼンの両脇を抱え牢から連れ出す。屋敷での堂々とした佇まいは何処かに消え、疲れ果てた顔をしていた。尋問室へを連れて行き、椅子に座らせる。セシリアスタ、イザークも腰を下ろし、言葉を発した。
「カーバンクルの生息地で、カーバンクルの血痕が見つかった。呪具作成の魔法陣の中でだ。あそこでカーバンクルの親を殺したな」
「…………」
セシリアスタの問いに答える気がないのか、アイゼンは無言だ。そんなアイゼンに、イザークは言葉を続ける。
「王家の許可なく呪具を作るのは重罪だ。このまま君が口を割らないならば、一族全員、罪に問われるよ」
「そ、それだけは……っ」
イザークの言葉に漸く顔を上げたアイゼン。そんなアイゼンに、イザークはにこりと微笑むだけだ。アイゼンは苦い顔をしながら、ぽつぽつと言葉を発しだした。
「……依頼が、あったのです」
「依頼? 誰からだ」
「そこまでは……ただ、カーバンクルの『浄化』の力を反転させた呪具が欲しいと……」
カーバンクルの生息地が清らかな地なのは、カーバンクルがそうした場所を好むからではない。自らの浄化の力で大地を浄化するからだ。それを知っているのは、ごく限られた人間しかいない。
「それで、作ったのか」
「最初は反対しました。ですが、断れば子ども達に手を出すと言われ……私は怖かった。妻を亡くし、今度は子ども達まで失うのかと」
そこまで言い、アイゼンは項垂れた。声は涙声だったが、したことの重さを考えれば同情の余地はない。
「で、作った呪具は何処に?」
「ディオス経由で依頼者に渡りました。ディオスは帝国から逃げてきたものです。もしかすると、帝国に渡った可能性もあります」
「面倒なことになったな」
セシリアスタは深く溜息を吐く。ディオスを捕まえねば、依頼主がわからない。そして、仮に帝国に渡っていたりしたら、国際問題にも発展するかもしれない。
「呪具作成は家族三人で行った。これに間違いはないな」
「はい……より強力な呪具をとの依頼だったので」
「わかった、今日はここまででいい。だが、これだけは言っておく。聖獣を使った呪具の作成は、前代未聞だ。それ相応の罪を君たちは受けることになる」
イザークの言葉に、アイゼンは目を閉じた。ゆっくりと立ち上がり、精鋭隊に引かれながら牢に戻っていった。
「いやはや、面倒なことになりそうだね」
「呑気に言ってるなよ。仮に帝国に渡ってたら大問題だぞ」
エドワースの一言に「わかってるよ」と答えるイザーク。その顔は真剣なものだった。
「帝国には呪具なんてものは存在しない。それが渡ったとなれば、作ることは不可能でも利用はするだろうな」
「ったく、面倒なことしてくれたよ……あの従者もどこかににげてるしよ」
「そうだね……彼の確保が最優先になるかもだね」
ディオスという青年。精鋭部隊を気絶させ、逃亡するくらいの実力者だ。確実に帝国のものだろう。
「取り敢えず、調査報告書を書いて父上にも相談してみるよ。呪具を作れる家系はユスターク家しかいないからね。今後帝国から狙われる可能性もあるし」
「ああ、頼む」
イザークは微笑みながら、先に王宮へと戻っていった。残る二人の尋問も、面倒だ。
「セシル、面倒だって顔に出てるぞ」
「全くもって面倒だ」
「だけど、ヴィクター・ユスタークは確実にやらなきゃならないぜ」
そう、彼だけは尋問しなければならない。レティシアのこともあるからだ。レティシアから聞いた話では、カーバンクルが黒い靄を消してくれていたと言っていた。となると、呪具を使用していた可能性もある。
「仕方ない。次の尋問をするか。エド」
「へいへい、お前の暴走を止める係は任せろ」
「……頼む」
レティシアのことになると、どうしても感情の起伏が高まる。それを止めてくれる存在に、深く感謝した。
「それにしてもよ、よく見に来ないで魔力残滓を探知してユスターク家の悪事の証拠なんて掴んだな」
「馬鹿言え。そんなこと出来る訳ないだろ。だからこうして今ここに来ているんだ」
その言葉に、エドワースは「へ?」と口を開けた。
「いやだって、昨日イザークそう言ってただろ。魔導公爵ならその位出来るって」
「いやあ、噓も方便ってやつだよ」
言いながら照れ笑いするイザークに、エドワースは拳骨をお見舞いした。
「くそっ、騙された!」
「勝手に騙されるお前もどうかと思うがな」
「う……」
セシリアスタの一言に口を噤むエドワース。そっと地面の土を手に取り、呪文を唱える。すると、魔法陣が淡い光を帯びながら浮かび上がった。
「やはり、呪具の作成に用いる魔法陣だな」
「そうだね……」
セシリアスタの魔法で浮かび上がった魔法陣を、持っていた紙に書き記していくエドワース。その横で、イザークはセシリアスタに言葉をかける。
「触媒が何だったかは調べることは出来るかい?」
「土の中に血痕が残ってさえいれば出来る」
「そっか。となると、あれとかそうかな」
イザークの指差す所には魔法陣の隅で輝く丸い斑点があった。魔法陣の模様とは違うそれに、セシリアスタは土を取り別の呪文を囁く。持ち上げた土が白い光に包まれると、宙にカーバンクルの面影が映し出された。
「当たりだな……この土は持っていく。血液が付着しているから証拠品になる」
「おう。こっちも魔法陣、写し終わったぜ」
エドワースは紙を仕舞い、持っていた袋に土を移す。魔法陣とカーバンクルの血痕、そしてユスターク家全員の魔力残滓を確認した。これで尋問の証拠は揃った。セシリアスタが立ちあがると、エドワースとイザークはセシリアスタの側に寄った。セシリアスタが呪文を唱えると、瞬時にその場から三人の姿は消えていた。
王宮から遠く離れた離宮。そこに、罪を犯した貴族達が収容される収容所がある。そのすぐ横には、精鋭部隊の駐屯地が置かれている。保護区から瞬間転移の魔法で戻ってきたセシリアスタとエドワース、イザークは収容所に入り、見張りの精鋭隊から挨拶を受ける。そして牢屋の中で俯き項垂れているアイゼンの牢へと歩み寄った。
「アイゼン伯爵、出ろ」
牢の鍵を開け、精鋭隊がアイゼンの両脇を抱え牢から連れ出す。屋敷での堂々とした佇まいは何処かに消え、疲れ果てた顔をしていた。尋問室へを連れて行き、椅子に座らせる。セシリアスタ、イザークも腰を下ろし、言葉を発した。
「カーバンクルの生息地で、カーバンクルの血痕が見つかった。呪具作成の魔法陣の中でだ。あそこでカーバンクルの親を殺したな」
「…………」
セシリアスタの問いに答える気がないのか、アイゼンは無言だ。そんなアイゼンに、イザークは言葉を続ける。
「王家の許可なく呪具を作るのは重罪だ。このまま君が口を割らないならば、一族全員、罪に問われるよ」
「そ、それだけは……っ」
イザークの言葉に漸く顔を上げたアイゼン。そんなアイゼンに、イザークはにこりと微笑むだけだ。アイゼンは苦い顔をしながら、ぽつぽつと言葉を発しだした。
「……依頼が、あったのです」
「依頼? 誰からだ」
「そこまでは……ただ、カーバンクルの『浄化』の力を反転させた呪具が欲しいと……」
カーバンクルの生息地が清らかな地なのは、カーバンクルがそうした場所を好むからではない。自らの浄化の力で大地を浄化するからだ。それを知っているのは、ごく限られた人間しかいない。
「それで、作ったのか」
「最初は反対しました。ですが、断れば子ども達に手を出すと言われ……私は怖かった。妻を亡くし、今度は子ども達まで失うのかと」
そこまで言い、アイゼンは項垂れた。声は涙声だったが、したことの重さを考えれば同情の余地はない。
「で、作った呪具は何処に?」
「ディオス経由で依頼者に渡りました。ディオスは帝国から逃げてきたものです。もしかすると、帝国に渡った可能性もあります」
「面倒なことになったな」
セシリアスタは深く溜息を吐く。ディオスを捕まえねば、依頼主がわからない。そして、仮に帝国に渡っていたりしたら、国際問題にも発展するかもしれない。
「呪具作成は家族三人で行った。これに間違いはないな」
「はい……より強力な呪具をとの依頼だったので」
「わかった、今日はここまででいい。だが、これだけは言っておく。聖獣を使った呪具の作成は、前代未聞だ。それ相応の罪を君たちは受けることになる」
イザークの言葉に、アイゼンは目を閉じた。ゆっくりと立ち上がり、精鋭隊に引かれながら牢に戻っていった。
「いやはや、面倒なことになりそうだね」
「呑気に言ってるなよ。仮に帝国に渡ってたら大問題だぞ」
エドワースの一言に「わかってるよ」と答えるイザーク。その顔は真剣なものだった。
「帝国には呪具なんてものは存在しない。それが渡ったとなれば、作ることは不可能でも利用はするだろうな」
「ったく、面倒なことしてくれたよ……あの従者もどこかににげてるしよ」
「そうだね……彼の確保が最優先になるかもだね」
ディオスという青年。精鋭部隊を気絶させ、逃亡するくらいの実力者だ。確実に帝国のものだろう。
「取り敢えず、調査報告書を書いて父上にも相談してみるよ。呪具を作れる家系はユスターク家しかいないからね。今後帝国から狙われる可能性もあるし」
「ああ、頼む」
イザークは微笑みながら、先に王宮へと戻っていった。残る二人の尋問も、面倒だ。
「セシル、面倒だって顔に出てるぞ」
「全くもって面倒だ」
「だけど、ヴィクター・ユスタークは確実にやらなきゃならないぜ」
そう、彼だけは尋問しなければならない。レティシアのこともあるからだ。レティシアから聞いた話では、カーバンクルが黒い靄を消してくれていたと言っていた。となると、呪具を使用していた可能性もある。
「仕方ない。次の尋問をするか。エド」
「へいへい、お前の暴走を止める係は任せろ」
「……頼む」
レティシアのことになると、どうしても感情の起伏が高まる。それを止めてくれる存在に、深く感謝した。