魔法の使えない不良品伯爵令嬢、魔導公爵に溺愛される2

罪と罰

 一週間後、遂にカーバンクルの処遇が決まる日が来た。レティシアはぎゅっとカールを抱き締める。
「キュウ?」
 首を傾げるカールに、レティシアは優しく微笑む。仕事を終え、セシリアスタが屋敷に戻ってきた。
「おかえりなさい、セシル様」
「ただいま」
 そっと肩を抱かれ、抱き寄せられる。普段と違ったセシリアスタに「セシル様?」と声を掛ける。
「大丈夫だ。食堂に行こう」
「はい」
 きっと、その時にカールの処遇も告げられるのね――。そう覚悟しながら、レティシアは共に食堂に向かった。



「気になっているようだな、カーバンクルのことが」
 食事の最中に声を掛けられ、レティシアは俯いた。
「はい……。カールはどうなるのでしょうか?」
 顔を上げ、セシリアスタへと視線を向ける。覚悟は出来ている。別れは辛いが、それがカールの為になるのならば、それを受け入れよう――。そう強く思った。
「そいつはレティシア、君のものになった」
「え……?」
 突然の言葉に、レティシアは目を瞬かせた。セシリアスタは微笑み、言葉を続ける。
「普通、カーバンクルはそこまで人に慣れないものだ。そのカーバンクルが君にそこまで懐いている。親も失った子どもを野に放し引き離すのはあまりにも酷だろうと国王陛下のお言葉だ」
「じゃあ……!」
「そいつはレティシア、君のボディガードにしておけ」
 微笑むセシリアスタに笑顔を返し、足元のカールに手を伸ばす。カールは見上げて素直にレティシアに抱き上げられた。
「カール、私達、ずっと一緒よ! 良かった……!」
 抱き寄せ、頬をすり合わせる。嬉しそうに顔を舐めるカールに、レティシアは笑顔を向けた。
「それと……ユスターク家の処罰については部屋で話そう」
「はい……」
 そうだ、嬉しいことばかりではなかったのだ――。ユスターク家のことについてここで話さないということは、相当な処罰が決まったのだろうと察しが付く。
 カールをそっと下ろし、食事を再開する。嬉しい反面、複雑な気持ちでもあった。




 セシリアスタの部屋に入り、ソファに腰掛ける。すぐ隣に座るセシリアスタは、普段とは違い疲れているように感じられた。
「セシル様、大丈夫ですか?」
「ああ……。そうだ、ユスターク家についての話だったな」
「はい」
 聞くと、カーバンクルの密猟、殺害、呪具への触媒にして呪具を作成したことを含め、王家の許可なしに呪具を作ったこと、レティシアへの脅迫、誘拐、監禁、ヴィクターの強姦未遂……。それらを合算しても、収容所送りは確定とのことだった。中でも一族三人で聖獣を触媒に呪具を作成したことは重罪と判断され、魔法封じの首輪の装着と、一部の成長阻害の薬の永劫服用が決められたそうだ。
「成長阻害、ですか?」
「ああ。ユスターク家の呪具の作成には、術者の髪の毛を使うことが判明した」
 故に、髪の毛を三人とも全て刈り、髪の成長阻害を一生行っていくという。
「その措置に対し暴れた者がいてな……」
「それは……」
「ビビアナ・ユスタークだ」
 ビビアナは最後の最後まで暴れて抵抗したそうだ。セシリアスタが拘束の魔法を使わないといけない程、暴れ続けたらしい。




「嫌だ嫌だ嫌だ!! この髪は母さま譲りの髪なんだ! 絶対に嫌だ!!」
「大人しくしろ!」
「嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ! 許さない、許さない許さない許さない! お前ら全員、許さないからな! 母さま譲りの髪なんだ、絶対に切るな、切るな切るなああああああ!!」
 そう何度も泣き叫び、藻掻き抵抗を続けたそうだ。その言葉を聞き、胸が苦しくなった。



「仕方ないことだ。罪を犯した者には罰を与える。それが理だ。だが、いささか今回の調査や尋問は魔力を多く使って疲れたな……」
「セシル様……」
 そっとセシリアスタの肩を抱き、膝の上に頭が乗るように体を倒す。そっと髪を梳いてやれば、セシリアスタは目を閉じた。
「レティシアは大丈夫か? 髪、切られただろう」
「私は大丈夫です。髪も切れたのは少しですし」
「君の髪色は、誰譲りなんだ?」
 手を伸ばし髪を撫でながら訊ねるセシリアスタに、レティシアはくすりと微笑んだ。
「それがわからないんです。父方にも母方にも銀髪はいなくて」
 髪の色や使える魔法の属性は、遺伝しやすい傾向にある。故に複数の属性を扱える子どもが欲しければ、魔力の高い自分とは別の属性を扱える者を伴侶にする貴族は多い。だが、ごく稀にその系統から外れる子どももいる。レティシアはその典型だった。
「そうだったのか……済まない」
「いえ、気にしてませんから。セシル様は?」
 髪をゆっくりと梳きながら、セシリアスタに問う。セシリアスタもレティシア同様、小さく微笑む。
「私もいないんだ。君と一緒さ。母は灰色の髪をしていたがね」
「まあ、お揃いですね」
 笑いかけると、「そうだな」と微笑み返してくれた。ゆっくり起き上がり、レティシアを抱き締めるセシリアスタ。首元に唇を這わせ、小さく鬱血痕を残した。
「ん、今日も、しますか……?」
「癒して欲しい。駄目か?」
 そう言うセシリアスタは、何処か疲れたような表情をしていた。そんな顔をされては、断ることも出来ない。いや、寧ろ癒して差し上げたくなる――。
「ベッドまで、連れて行ってください……」
 恥ずかし気に両手を伸ばし、セシリアスタを誘う。そんなレティシアを、セシリアスタは愛おしそうに抱きかかえた。
「ありがとう、レティシア」
 余裕そうにしているセシリアスタだが、やはり顔色があまりよくない気がする。癒してあげたい――。そう強く思い、首に回した手で後ろ髪を撫でてあげた。
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