魔法の使えない不良品伯爵令嬢、魔導公爵に溺愛される2
長期休暇
ユスターク家全員が収容所に収監され、爵位剥奪と領地の没収が決まってから三日が経った。トレスト領地は隣のミルグ領地を管轄するジェーン伯爵家が管理を任され、ユスターク家の屋敷だった城塞は取り壊す事が決まった。そして、屋敷の中にあったものは全てセシリアスタの管理のもと、すべて焼却処分された。中には呪具や作成に欠かせないもの、呪術に関する書物も含まれていたが、それらは国王陛下の指示により、全てが処分の対象となった。
一連の事件の後始末も終わりだした頃、セシリアスタから発せられた言葉に、レティシアは目を瞬かせた。
「新婚旅行、ですか?」
穏やかな昼時、庭園に備え付けられたテーブルでセシリアスタと二人でゆったりと紅茶を飲みながら過ごしていた時、突如言われた単語。その言葉を、レティシアは繰り返す。セシリアスタは優雅に紅茶の淹れられたカップを持ち上げ微笑んだ。
「陛下には休暇も国外への渡航の許可も取ってある。結婚してから長期の休みもとっていなかったからな」
「旅行……」
レティシアは旅行とは無縁だった。いつもスフィアのアカデミーの長期休暇となっても、タウンハウスに連れて行くのはスフィアのみだった。旅行も然りだ。レティシアは屋敷で留守番、それが当たり前だった。だから旅行というのがどういったものかわからない。若干の不安が湧き上がった。
「レティシア?」
ハッとし、じっと見つめるセシリアスタへと視線を戻す。「どうした」と声を掛けるセシリアスタに心配させまいと笑顔を向ける。
「なんでもないです。旅行先はもう決まったのですか?」
「ダグラスかティリアのどちらかが無難だろうな。どちらがいい?」
「えっと……」
ダグラスもティリアも、海を越えた先にある大陸国家だ。ダグラスは衣服などの染め物が盛んな国家で、グリスタニアへ輸入される布も多い。逆にティリアは鉱石の多く採れる国家だ。大地からマナが湧き上がる地脈が多き存在し、それが花のように結晶化したマナフラワーが観光の要になっている。
「どちらも素敵な場所ですよね……セシル様としてはどちらがお薦めですか?」
「私としてはティリアに軍配が上がるな。だが、レティシアにすればダグラスもいいだろう。両国とも隣同士だ。この際、どちらも行くか」
その言葉に、レティシアは目を輝かせた。
「いいのですか?」
「ああ。悩むならばどちらも行けばいい。幸い、休暇は一月ある」
「そうなんですね。カールも連れて行っても?」
レティシア問いに、セシリアスタは少し悩み頷いた。連れて行ってもいいと言われ、レティシアは顔が綻んだ。
「良かった。でもカールには首輪をしておかなきゃですね」
「ああ。誘拐されては新婚旅行も台無しになるからな」
「ですね」
新婚旅行、その響きにレティシアは顔が自然と緩まった。セシリアスタと旅行というだけでも嬉しいのに、新婚旅行と名が変わるだけで、どうしてこうも嬉しくなるのだろうか――。
「旅行は三日後、早朝の船で行こう。大丈夫か?」
「はい、用意しておきますね」
「従者はエドとカイラ、アティカでいいだろう」
顎に指を添え、人選を考えるセシリアスタ。その向かいで、レティシアはとてとてと近付いてきたカールを抱き上げた。
「カール、一緒に旅行に行きましょうね」
「キュウ」
人語がわかるかのようにレティシアの腕へと手を添えるカールに、レティシアは小さく微笑んだ。
「レティシア、薔薇でも見に行こう」
「はい。セシル様」
椅子から立ち上がり、差し出されたセシリアスタの手を取る。膝に乗っていたカールは足元で伸びをし、共に歩き出す。新婚旅行、とても楽しみだ――。レティシアはそう思いつつセシリアスタに笑みを向けながら、ゆっくりと庭園へと歩き出した。
一連の事件の後始末も終わりだした頃、セシリアスタから発せられた言葉に、レティシアは目を瞬かせた。
「新婚旅行、ですか?」
穏やかな昼時、庭園に備え付けられたテーブルでセシリアスタと二人でゆったりと紅茶を飲みながら過ごしていた時、突如言われた単語。その言葉を、レティシアは繰り返す。セシリアスタは優雅に紅茶の淹れられたカップを持ち上げ微笑んだ。
「陛下には休暇も国外への渡航の許可も取ってある。結婚してから長期の休みもとっていなかったからな」
「旅行……」
レティシアは旅行とは無縁だった。いつもスフィアのアカデミーの長期休暇となっても、タウンハウスに連れて行くのはスフィアのみだった。旅行も然りだ。レティシアは屋敷で留守番、それが当たり前だった。だから旅行というのがどういったものかわからない。若干の不安が湧き上がった。
「レティシア?」
ハッとし、じっと見つめるセシリアスタへと視線を戻す。「どうした」と声を掛けるセシリアスタに心配させまいと笑顔を向ける。
「なんでもないです。旅行先はもう決まったのですか?」
「ダグラスかティリアのどちらかが無難だろうな。どちらがいい?」
「えっと……」
ダグラスもティリアも、海を越えた先にある大陸国家だ。ダグラスは衣服などの染め物が盛んな国家で、グリスタニアへ輸入される布も多い。逆にティリアは鉱石の多く採れる国家だ。大地からマナが湧き上がる地脈が多き存在し、それが花のように結晶化したマナフラワーが観光の要になっている。
「どちらも素敵な場所ですよね……セシル様としてはどちらがお薦めですか?」
「私としてはティリアに軍配が上がるな。だが、レティシアにすればダグラスもいいだろう。両国とも隣同士だ。この際、どちらも行くか」
その言葉に、レティシアは目を輝かせた。
「いいのですか?」
「ああ。悩むならばどちらも行けばいい。幸い、休暇は一月ある」
「そうなんですね。カールも連れて行っても?」
レティシア問いに、セシリアスタは少し悩み頷いた。連れて行ってもいいと言われ、レティシアは顔が綻んだ。
「良かった。でもカールには首輪をしておかなきゃですね」
「ああ。誘拐されては新婚旅行も台無しになるからな」
「ですね」
新婚旅行、その響きにレティシアは顔が自然と緩まった。セシリアスタと旅行というだけでも嬉しいのに、新婚旅行と名が変わるだけで、どうしてこうも嬉しくなるのだろうか――。
「旅行は三日後、早朝の船で行こう。大丈夫か?」
「はい、用意しておきますね」
「従者はエドとカイラ、アティカでいいだろう」
顎に指を添え、人選を考えるセシリアスタ。その向かいで、レティシアはとてとてと近付いてきたカールを抱き上げた。
「カール、一緒に旅行に行きましょうね」
「キュウ」
人語がわかるかのようにレティシアの腕へと手を添えるカールに、レティシアは小さく微笑んだ。
「レティシア、薔薇でも見に行こう」
「はい。セシル様」
椅子から立ち上がり、差し出されたセシリアスタの手を取る。膝に乗っていたカールは足元で伸びをし、共に歩き出す。新婚旅行、とても楽しみだ――。レティシアはそう思いつつセシリアスタに笑みを向けながら、ゆっくりと庭園へと歩き出した。