魔法の使えない不良品伯爵令嬢、魔導公爵に溺愛される2
ミルグ領地にて
最初のサロンは、ジェーン伯爵のサロンに決まったレティシア。夕飯の時、その話をセシリアスタにしておいた。
「ジェーン伯爵のサロン?」
「はい。お義姉様が話をつけてくださるとのことで、同年代の方との初めてのサロンです」
そう言うと、セシリアスタは頬を緩ませた。
「そうか。ジェーン伯爵というと、ミルグ領の領主だ。おそらくサロンはそこで行うことになるだろう」
「ミルグ……ですか」
となると、少し遠出となる。その間、家を留守にしてしまうが、大丈夫だろうか――。
「安心しろ。この屋敷は結界を張り巡らせてある」
「なら大丈夫ですね」
「寧ろ問題なのは君だ。レティシア」
その言葉に、レティシアは首を傾げた。
「私、ですか?」
「前にも一度誘拐されている。心配で仕方ないよ」
そう言って顔を俯かせるセシリアスタに、レティシアは「大丈夫ですよ」と言い微笑んだ。
「今回はディアナ様も一緒ですので」
「……そうか。なら、楽しんで来い」
「はい、セシル様」
翌日、サロンに向かうのにあたり用意をする。お気に入りの白いフリルとレースのたっぷり付いた膝丈のワンピースに袖を通し、同色のクラウチ・ハットを被る。玄関で待っていると、ディアナの乗った馬車がユグドラス邸に着いた。
「おはよう、レティシアちゃん」
「おはようございます。お義姉様」
キャリッジに乗り込むと、馬車が動き出した。向かいに座るディアナは青のアワーグラス・ドレスに身を包んでおり、とても綺麗だった。
「今日はミルグ領にあるジェーン伯爵のカントリーハウスに向かうわ」
「はい」
「緊張、してる?」
その言葉に、「少し……」と答えるレティシア。そんなレティシアに、ディアナは微笑む。
「大丈夫よ。ジェーン伯爵夫人は優しい方よ。会えばわかるわ」
「はい」
そんな他愛もない話をしていると、時間はあっという間に過ぎ、ミルグ領に入った。麦の畑が多く存在し、皆がいきいきと畑仕事をしている。
「綺麗……」
麦の稲穂の変わりだした色に魅了されていると、大きな屋敷が見えてきた。きっと、あそこがジェーン伯爵の屋敷なのだろう。
「待っていたわ! ディアナ」
「トリア、久しぶりね」
ディアナと抱き合う女性。水色の髪にオレンジの目の女性は、おそらくジェーン伯爵夫人なのだろう。
「この子が、話していた子ね?」
「ええ」
ディアナに導かれ、トリアと呼ばれていた女性に挨拶をする。
「はじめまして、レティシア・ユグドラスです」
「まあ可愛らしい子。私はトリア・ジェーン。ディアナとは長い友人よ」
優しく微笑まれ、レティシアは顔が綻んだ。少し下がった所に、メルヴィーがいた。
「メルヴィー、挨拶さない」
「ディアナ様、お初にお目にかかります。メルヴィー・ジェーンと申します」
「よろしくね」
ディアナに挨拶をすると、メルヴィーはレティシアの方を向いた。思わずドキリとしてしまう。
「レティシア様も、お久しぶりですわ」
「トリア様、メルヴィー様、今日はよろしくお願いいたします」
「さあ、こんな所で話もなんですから、庭に行きましょう」
トリアの掛け声で、四人は庭の休憩スペースに向かった。
トリアとディアナは屋敷内の客間に移動してしまい、庭にはレティシアとメルヴィーだけが残った。メルヴィーは先程までの態度は何処へ行ったのやら、何時も通りの口調に変わっていた。
「レティシア様、私、あなたのライバルですわよ! そんなライバルの家によくものこのこと来れますわね!?」
「ディアナお義姉様の計らいで、初のサロンはジェーン伯爵にするべきだと言われまして……」
率直にそう告げると、メルヴィーは「初……まあそれならば構いませんが……」と小声で呟いた。
目の前には嗅いだ事のないお茶が置かれていた。
「メルヴィー様、この緑の飲み物は何でしょうか?」
「緑茶、というものらしいですわ。母が最近、南蛮の国の物に興味を持っておりますの」
「へえ……綺麗ですね」
緑の澄んだお茶に見とれながら、レティシアは「頂いても?」と訊ねる。メルヴィーが手を差し述べたので、そっとカップを持ち上げ、一口飲んでみる。意外な苦さに驚く。
「苦ければ、お菓子をお食べ下さいな」
お菓子を一口貰い、苦さを緩和する。メルヴィーは慣れているのか、一気に飲んでいた。
サロンだからと、メルヴィーは色々な情勢の話を持ち出してくる。それに返事を返しながら言葉を交わしていると、意外な顔をされた。
「どうしました?」
「いえ……アカデミーに通ってないと噂を聞いておりましたので、ここまでお話出来るのに少々驚いております」
そうか。ディアナの言っていたことはこのことだったのか――。レティシアは微笑みながら、言葉を続ける。
「家庭教師だけはつけて貰えていたので……それで学びました」
「でも、アカデミーでも難しい話をこうも出来るなんて、想像もしませんでしたわ……私も態度を改める必要がありますわね」
そう言うメルヴィーに、レティシアは慌てて首を振った。
「そんな、メルヴィー様は何時も私を見て接してくれました。だからどうか、そのままでいてくださいな」
「レティシア様……」
レティシアとメルヴィー、少しだけ、今までとは関係が変わりそう。そう思えた矢先に、銃声のような音が響いた。
「な、なんですの!?」
「森の方から?」
なんだか、嫌な予感がする――。そう思うと、レティシアは一目散に森へと駆けて行った。
「レティシア様!」
メルヴィーも、レティシアの後を追うように森の中へと走って行った。
「ジェーン伯爵のサロン?」
「はい。お義姉様が話をつけてくださるとのことで、同年代の方との初めてのサロンです」
そう言うと、セシリアスタは頬を緩ませた。
「そうか。ジェーン伯爵というと、ミルグ領の領主だ。おそらくサロンはそこで行うことになるだろう」
「ミルグ……ですか」
となると、少し遠出となる。その間、家を留守にしてしまうが、大丈夫だろうか――。
「安心しろ。この屋敷は結界を張り巡らせてある」
「なら大丈夫ですね」
「寧ろ問題なのは君だ。レティシア」
その言葉に、レティシアは首を傾げた。
「私、ですか?」
「前にも一度誘拐されている。心配で仕方ないよ」
そう言って顔を俯かせるセシリアスタに、レティシアは「大丈夫ですよ」と言い微笑んだ。
「今回はディアナ様も一緒ですので」
「……そうか。なら、楽しんで来い」
「はい、セシル様」
翌日、サロンに向かうのにあたり用意をする。お気に入りの白いフリルとレースのたっぷり付いた膝丈のワンピースに袖を通し、同色のクラウチ・ハットを被る。玄関で待っていると、ディアナの乗った馬車がユグドラス邸に着いた。
「おはよう、レティシアちゃん」
「おはようございます。お義姉様」
キャリッジに乗り込むと、馬車が動き出した。向かいに座るディアナは青のアワーグラス・ドレスに身を包んでおり、とても綺麗だった。
「今日はミルグ領にあるジェーン伯爵のカントリーハウスに向かうわ」
「はい」
「緊張、してる?」
その言葉に、「少し……」と答えるレティシア。そんなレティシアに、ディアナは微笑む。
「大丈夫よ。ジェーン伯爵夫人は優しい方よ。会えばわかるわ」
「はい」
そんな他愛もない話をしていると、時間はあっという間に過ぎ、ミルグ領に入った。麦の畑が多く存在し、皆がいきいきと畑仕事をしている。
「綺麗……」
麦の稲穂の変わりだした色に魅了されていると、大きな屋敷が見えてきた。きっと、あそこがジェーン伯爵の屋敷なのだろう。
「待っていたわ! ディアナ」
「トリア、久しぶりね」
ディアナと抱き合う女性。水色の髪にオレンジの目の女性は、おそらくジェーン伯爵夫人なのだろう。
「この子が、話していた子ね?」
「ええ」
ディアナに導かれ、トリアと呼ばれていた女性に挨拶をする。
「はじめまして、レティシア・ユグドラスです」
「まあ可愛らしい子。私はトリア・ジェーン。ディアナとは長い友人よ」
優しく微笑まれ、レティシアは顔が綻んだ。少し下がった所に、メルヴィーがいた。
「メルヴィー、挨拶さない」
「ディアナ様、お初にお目にかかります。メルヴィー・ジェーンと申します」
「よろしくね」
ディアナに挨拶をすると、メルヴィーはレティシアの方を向いた。思わずドキリとしてしまう。
「レティシア様も、お久しぶりですわ」
「トリア様、メルヴィー様、今日はよろしくお願いいたします」
「さあ、こんな所で話もなんですから、庭に行きましょう」
トリアの掛け声で、四人は庭の休憩スペースに向かった。
トリアとディアナは屋敷内の客間に移動してしまい、庭にはレティシアとメルヴィーだけが残った。メルヴィーは先程までの態度は何処へ行ったのやら、何時も通りの口調に変わっていた。
「レティシア様、私、あなたのライバルですわよ! そんなライバルの家によくものこのこと来れますわね!?」
「ディアナお義姉様の計らいで、初のサロンはジェーン伯爵にするべきだと言われまして……」
率直にそう告げると、メルヴィーは「初……まあそれならば構いませんが……」と小声で呟いた。
目の前には嗅いだ事のないお茶が置かれていた。
「メルヴィー様、この緑の飲み物は何でしょうか?」
「緑茶、というものらしいですわ。母が最近、南蛮の国の物に興味を持っておりますの」
「へえ……綺麗ですね」
緑の澄んだお茶に見とれながら、レティシアは「頂いても?」と訊ねる。メルヴィーが手を差し述べたので、そっとカップを持ち上げ、一口飲んでみる。意外な苦さに驚く。
「苦ければ、お菓子をお食べ下さいな」
お菓子を一口貰い、苦さを緩和する。メルヴィーは慣れているのか、一気に飲んでいた。
サロンだからと、メルヴィーは色々な情勢の話を持ち出してくる。それに返事を返しながら言葉を交わしていると、意外な顔をされた。
「どうしました?」
「いえ……アカデミーに通ってないと噂を聞いておりましたので、ここまでお話出来るのに少々驚いております」
そうか。ディアナの言っていたことはこのことだったのか――。レティシアは微笑みながら、言葉を続ける。
「家庭教師だけはつけて貰えていたので……それで学びました」
「でも、アカデミーでも難しい話をこうも出来るなんて、想像もしませんでしたわ……私も態度を改める必要がありますわね」
そう言うメルヴィーに、レティシアは慌てて首を振った。
「そんな、メルヴィー様は何時も私を見て接してくれました。だからどうか、そのままでいてくださいな」
「レティシア様……」
レティシアとメルヴィー、少しだけ、今までとは関係が変わりそう。そう思えた矢先に、銃声のような音が響いた。
「な、なんですの!?」
「森の方から?」
なんだか、嫌な予感がする――。そう思うと、レティシアは一目散に森へと駆けて行った。
「レティシア様!」
メルヴィーも、レティシアの後を追うように森の中へと走って行った。