魔法の使えない不良品伯爵令嬢、魔導公爵に溺愛される2
嫌な予感のするサロン
招待状の返事を書こうとしていたその日、新たにユスターク家から招待状が届いた。
「返事を出す前で良かったかしら……」
「お嬢様、気を付けてっ。呪い使いの手紙ですから、何か危険なものが入っているかも……っ」
そんな心配をするカイラに、レティシアは「大丈夫よ」と微笑んだ。
「仮にも招待状よ? そんな変なものは入れてこないわ……あら?」
ふと、何時もの手紙よりも分厚い気がした。何か嫌な予感がする――。そう思いつつも、そっと封を開けた。中には、手紙が二通と、何かの毛の束が入っていた。一通目は普通の招待状だが、何故かカーバンクルも同伴させるようにと書かれていた。
(カーバンクルも一緒に? どういうことかしら――。)
二通目の手紙を、静かに読みだす。そこに、理由が書かれていた。
カーバンクルの親の命が惜しかったら、カーバンクルを連れてこい。サロンは五日後。それまではあんたがセシリアスタの横にいるのを寛大な心で許してやるよ。五日後、離婚届を持ってサロンに来い。でなければ、親のカーバンクルの命はない。
「そんな……」
「レティシアお嬢様、どうかなさいましたか?」
青褪めるレティシアに、アティカが心配そうに顔を覗き込む。「失礼します」と言い手紙を拝借したカイラは、すぐさま手紙を置き魔法便の魔道具を起動させた。
「レティシア!」
「セシル様……っ」
駆けつけたセシリアスタに抱き着き、心を静める。だが、テーブルの上のライトグリーンの毛の束が不安を再び煽ってくる。
「最低だな……」
「ああ」
エドワースの言葉に素直に賛同するセシリアスタ。カーバンクルは毛の束の匂いを嗅ぐと、レティシアの元に駆け寄り、何度も鳴き出した。
「キュウ、キュウ」
「カーバンクル……」
そっとセシリアスタから離れ、カーバンクルを抱き上げる。カーバンクルは青褪めるレティシアの頬を、懸命に舐めた。
「ありがとう……あなたの方が不安でしょうに」
「どうする。このまま奴らの言う通りに従うのは得策じゃねえぜ」
「ああ、策は用意してある」
そう言うセシリアスタを、レティシアは不安げに見つめていた。
五日後。約束のサロンの日がやってきた。真紅のマーメイドドレスに身を包み、レティシアはエドワースと共にユスターク邸に向かった。ユスターク邸のある場所は、ミルグ領の隣、トレスト領地だ。隣のミルグ領とは違い、畑は瘦せていた。そんな光景を見ながら、ユスターク邸へと馬車は進んでいった。
「よくお越しくださいました。私は従者のディオスと申します」
「歓迎どーも。さっさと案内よろしく」
「……私共はレティシア様のみをお迎えするように言われております。他の方はお引き取り下さい」
睨みを利かすディオスに、エドワースは言葉を発する。
「魔導公爵の伝言を預かっている。本来、本人が来なければいけない所だが、生憎忙しい。故に補佐官である俺が来た。そう当主に伝えろ」
エドワースは睨みなどお構いなしに言葉を続ける。暫し悩み、ディオスは二人を屋敷の中に招き入れた。
「ああ、来た来た! ほら、やっぱり来たよ!」
そう声を上げるビビアナに、レティシアはカーバンクルを抱きかかえる手に力が籠った。
「ディオス、一人お客人が多いぞ。僕と彼女のお茶会に野次馬を入れるな」
「申し訳ありません。旦那様に用があるとのことでして……」
顔を顰めるヴィクターに、ディオスは頭を垂れる。レティシアはヴィクターに声を掛ける。
「私はビビアナ様のサロンに招待されたのであって、あなたとは関係ありません」
そんなレティシアに、ヴィクターは頬を赤らめながら近付いてくる。
「そんなこと言わないでくれ。サロンは男女ともに交流を深める場所でもある。君と仲良くなるには好都合さ」
「前にもお伝えいたしましたが、私は夫がいます」
その言葉に、ビビアナの目の色が変わった。
「おい。『今は』の間違いだろ。訂正しろよ。さっさと離婚届、こっちに寄越せ」
「……わかりました」
そっと鞄から離婚届を出し、ビビアナに渡すレティシア。ビビアナはそれを乱暴に奪い取ると、歓喜した。
「やった! これでセシリアスタはあたしのものだ!!」
「約束です。カーバンクルの親を解放してください」
「はあ? 何言ってるんだ、お前。元からカーバンクルの親なんてこの家にいる訳ねえだろ。あれはそいつの毛だよ」
その言葉に、レティシアは目を見開く。
「騙したのですか!」
「勝手に騙される方が悪いんだろっての! あはは! もうお前はセシリアスタの妻でもなんでもねえ! 兄さま、好きにしちゃってもいいよ」
そう言い放つビビアナに、エドワースは「馬鹿はそっちだよ」と笑った。エドワースが言葉を放った瞬間、離婚届が水となりビビアナの手から消えた。
「はあ!?」
「幻覚も見破れないんじゃ、セシルの妻は無理だな」
「このっ」
手を振り上げ、エドワースに攻撃を仕掛けるビビアナだが、エドワースはそれを軽やかに躱していく。次第にビビアナの表情がどす黒くなっていく。
「ふざけんなよ! ただの一般人の癖に!」
「そのただの一般人に攻撃が当てられないお嬢さんに言われたくないね」
そんな二人をどうすればいいか見ていたレティシア。急に肩を掴まれ、思わず叫んだ。
「きゃあ!」
「そんなに驚かないで。あの二人は放っておいて、僕と一緒に楽しくお茶でもしよう」
肩を抱かれ、嫌悪感がする。レティシアは手を振り解き、距離を取った。
「お断りです! カーバンクルを使って脅迫してくる方々とはご遠慮します」
「つれないな……でも、そこが魅力的だ。魔導公爵なんか捨てて、僕と一緒になろうよ」
「あなたより、セシル様の方が何倍も素敵です。お断りします」
同じことの繰り返しだ。どうするか――。そう思った瞬間、背後から邪な気配を感じ振り返った。
「不良品が……偉そうな口を叩くな!」
「っ」
「レティシア嬢!」
テーブルの上にあったナイフで、髪を切られた。ぎりぎり頬には掠らなかったが、おそらくエンチャント魔法をかけていたから髪が切れたのだろう。そう瞬時に分析するレティシアへ、ビビアナは再び攻撃を仕掛けようとする。
「このっ、正当防衛だからな!」
瞬時にレティシアとビビアナの間に同じくエンチャントで移動してきたエドワースが、ビビアナの腹を殴る。「かはっ」と言いその場に倒れたビビアナを放置し、エドワースは風魔法で切られた髪を全てかき集め、水の玉の中に納めた。
「レティシア嬢、無事、じゃねえよな……」
髪は切られ、腰辺りまであった髪は一部だけ肩甲骨の辺りまで短くなっていた。
「大丈夫です。髪以外はなんともありません」
「いやいや、俺完全に怒られるフラグだよ……取り敢えず、帰りましょう」
「はい」
動かないビビアナが少し不安だが、ここはエドワースのいうことを聞いておいた方が良い。そう判断したレティシアは、エドワースの手を取り馬車まで向かおうとした。
「お待ちください」
だが、ディオスに阻まれる。エドワースは睨みながら、言葉を発した。
「何だよ。言っとくが、あれは正当防衛だからな」
「その前に、カーバンクルを置いて行ってください」
その言葉に、カーバンクルが威嚇しだした。尻尾を極限にまで膨らませ、威嚇している。
「お断りいたします」
即座に、レティシアは拒んだ。ディオスは静かにレティシアを睨んだ。
「元々、そのカーバンクルはユスターク家のものです。泥棒として自警団をお呼びしてもいいのですよ?」
「たとえあなた方の家の子でも、怪我をさせるような家に置いていくことは出来ません」
その言葉に、ディオスは小さく溜息を吐き道を譲った。そして馬車に乗り込むと、真っすぐユグドラス邸へと戻ったのだった。
「返事を出す前で良かったかしら……」
「お嬢様、気を付けてっ。呪い使いの手紙ですから、何か危険なものが入っているかも……っ」
そんな心配をするカイラに、レティシアは「大丈夫よ」と微笑んだ。
「仮にも招待状よ? そんな変なものは入れてこないわ……あら?」
ふと、何時もの手紙よりも分厚い気がした。何か嫌な予感がする――。そう思いつつも、そっと封を開けた。中には、手紙が二通と、何かの毛の束が入っていた。一通目は普通の招待状だが、何故かカーバンクルも同伴させるようにと書かれていた。
(カーバンクルも一緒に? どういうことかしら――。)
二通目の手紙を、静かに読みだす。そこに、理由が書かれていた。
カーバンクルの親の命が惜しかったら、カーバンクルを連れてこい。サロンは五日後。それまではあんたがセシリアスタの横にいるのを寛大な心で許してやるよ。五日後、離婚届を持ってサロンに来い。でなければ、親のカーバンクルの命はない。
「そんな……」
「レティシアお嬢様、どうかなさいましたか?」
青褪めるレティシアに、アティカが心配そうに顔を覗き込む。「失礼します」と言い手紙を拝借したカイラは、すぐさま手紙を置き魔法便の魔道具を起動させた。
「レティシア!」
「セシル様……っ」
駆けつけたセシリアスタに抱き着き、心を静める。だが、テーブルの上のライトグリーンの毛の束が不安を再び煽ってくる。
「最低だな……」
「ああ」
エドワースの言葉に素直に賛同するセシリアスタ。カーバンクルは毛の束の匂いを嗅ぐと、レティシアの元に駆け寄り、何度も鳴き出した。
「キュウ、キュウ」
「カーバンクル……」
そっとセシリアスタから離れ、カーバンクルを抱き上げる。カーバンクルは青褪めるレティシアの頬を、懸命に舐めた。
「ありがとう……あなたの方が不安でしょうに」
「どうする。このまま奴らの言う通りに従うのは得策じゃねえぜ」
「ああ、策は用意してある」
そう言うセシリアスタを、レティシアは不安げに見つめていた。
五日後。約束のサロンの日がやってきた。真紅のマーメイドドレスに身を包み、レティシアはエドワースと共にユスターク邸に向かった。ユスターク邸のある場所は、ミルグ領の隣、トレスト領地だ。隣のミルグ領とは違い、畑は瘦せていた。そんな光景を見ながら、ユスターク邸へと馬車は進んでいった。
「よくお越しくださいました。私は従者のディオスと申します」
「歓迎どーも。さっさと案内よろしく」
「……私共はレティシア様のみをお迎えするように言われております。他の方はお引き取り下さい」
睨みを利かすディオスに、エドワースは言葉を発する。
「魔導公爵の伝言を預かっている。本来、本人が来なければいけない所だが、生憎忙しい。故に補佐官である俺が来た。そう当主に伝えろ」
エドワースは睨みなどお構いなしに言葉を続ける。暫し悩み、ディオスは二人を屋敷の中に招き入れた。
「ああ、来た来た! ほら、やっぱり来たよ!」
そう声を上げるビビアナに、レティシアはカーバンクルを抱きかかえる手に力が籠った。
「ディオス、一人お客人が多いぞ。僕と彼女のお茶会に野次馬を入れるな」
「申し訳ありません。旦那様に用があるとのことでして……」
顔を顰めるヴィクターに、ディオスは頭を垂れる。レティシアはヴィクターに声を掛ける。
「私はビビアナ様のサロンに招待されたのであって、あなたとは関係ありません」
そんなレティシアに、ヴィクターは頬を赤らめながら近付いてくる。
「そんなこと言わないでくれ。サロンは男女ともに交流を深める場所でもある。君と仲良くなるには好都合さ」
「前にもお伝えいたしましたが、私は夫がいます」
その言葉に、ビビアナの目の色が変わった。
「おい。『今は』の間違いだろ。訂正しろよ。さっさと離婚届、こっちに寄越せ」
「……わかりました」
そっと鞄から離婚届を出し、ビビアナに渡すレティシア。ビビアナはそれを乱暴に奪い取ると、歓喜した。
「やった! これでセシリアスタはあたしのものだ!!」
「約束です。カーバンクルの親を解放してください」
「はあ? 何言ってるんだ、お前。元からカーバンクルの親なんてこの家にいる訳ねえだろ。あれはそいつの毛だよ」
その言葉に、レティシアは目を見開く。
「騙したのですか!」
「勝手に騙される方が悪いんだろっての! あはは! もうお前はセシリアスタの妻でもなんでもねえ! 兄さま、好きにしちゃってもいいよ」
そう言い放つビビアナに、エドワースは「馬鹿はそっちだよ」と笑った。エドワースが言葉を放った瞬間、離婚届が水となりビビアナの手から消えた。
「はあ!?」
「幻覚も見破れないんじゃ、セシルの妻は無理だな」
「このっ」
手を振り上げ、エドワースに攻撃を仕掛けるビビアナだが、エドワースはそれを軽やかに躱していく。次第にビビアナの表情がどす黒くなっていく。
「ふざけんなよ! ただの一般人の癖に!」
「そのただの一般人に攻撃が当てられないお嬢さんに言われたくないね」
そんな二人をどうすればいいか見ていたレティシア。急に肩を掴まれ、思わず叫んだ。
「きゃあ!」
「そんなに驚かないで。あの二人は放っておいて、僕と一緒に楽しくお茶でもしよう」
肩を抱かれ、嫌悪感がする。レティシアは手を振り解き、距離を取った。
「お断りです! カーバンクルを使って脅迫してくる方々とはご遠慮します」
「つれないな……でも、そこが魅力的だ。魔導公爵なんか捨てて、僕と一緒になろうよ」
「あなたより、セシル様の方が何倍も素敵です。お断りします」
同じことの繰り返しだ。どうするか――。そう思った瞬間、背後から邪な気配を感じ振り返った。
「不良品が……偉そうな口を叩くな!」
「っ」
「レティシア嬢!」
テーブルの上にあったナイフで、髪を切られた。ぎりぎり頬には掠らなかったが、おそらくエンチャント魔法をかけていたから髪が切れたのだろう。そう瞬時に分析するレティシアへ、ビビアナは再び攻撃を仕掛けようとする。
「このっ、正当防衛だからな!」
瞬時にレティシアとビビアナの間に同じくエンチャントで移動してきたエドワースが、ビビアナの腹を殴る。「かはっ」と言いその場に倒れたビビアナを放置し、エドワースは風魔法で切られた髪を全てかき集め、水の玉の中に納めた。
「レティシア嬢、無事、じゃねえよな……」
髪は切られ、腰辺りまであった髪は一部だけ肩甲骨の辺りまで短くなっていた。
「大丈夫です。髪以外はなんともありません」
「いやいや、俺完全に怒られるフラグだよ……取り敢えず、帰りましょう」
「はい」
動かないビビアナが少し不安だが、ここはエドワースのいうことを聞いておいた方が良い。そう判断したレティシアは、エドワースの手を取り馬車まで向かおうとした。
「お待ちください」
だが、ディオスに阻まれる。エドワースは睨みながら、言葉を発した。
「何だよ。言っとくが、あれは正当防衛だからな」
「その前に、カーバンクルを置いて行ってください」
その言葉に、カーバンクルが威嚇しだした。尻尾を極限にまで膨らませ、威嚇している。
「お断りいたします」
即座に、レティシアは拒んだ。ディオスは静かにレティシアを睨んだ。
「元々、そのカーバンクルはユスターク家のものです。泥棒として自警団をお呼びしてもいいのですよ?」
「たとえあなた方の家の子でも、怪我をさせるような家に置いていくことは出来ません」
その言葉に、ディオスは小さく溜息を吐き道を譲った。そして馬車に乗り込むと、真っすぐユグドラス邸へと戻ったのだった。