A Maze of Love 〜縺れた愛〜
 そのような家に育った大翔は孤独な子供だった。
 裕福だったので、欲しいと言えばなんでも買い与えてくれたが、大量のおもちゃに囲まれていても、寂しい気持ちは埋まらなかった。

 でも綿貫(わたぬき)凪咲(なぎさ)に出会った日から、大翔はひとりぼっちではなくなった。



 庭のかたすみにチューリップが咲いていたから、4月か5月だったのだろう。

 幼稚園から帰ると、見知らぬ女の子が花壇のまえにしゃがみこんでいた。
「わあ、きれい」と目を輝かせて。

「だれ?」大翔が尋ねると、女の子はびくっとして立ちあがった。

「こんにちは。わたぬきなぎさです。あなたは?」
 ぴょこんと頭を下げて、はきはきした声で答えた。

「ひろと。しばたひろと」
「なんさい?」
「えーと、むっつ」
「じゃ、なぎさのほうが大きいよ。もう7歳だもん」

 さらさらの長い髪を高い位置でふたつ結びにした、パッチリした大きな目が印象的な子だった。
 うさぎのキャラクターがついたTシャツにデニムのミニスカートをはいていて、脚がすらっと長かった。

 大翔は尋ねた。
「なんで、うちにいるの? 遊びに来たの?」

「引っ越してきたの。今日からここがおうちだって、ママが言ってた」
< 15 / 48 >

この作品をシェア

pagetop