A Maze of Love 〜縺れた愛〜
　そのとき、向こうから女の人が駆けよってきて、女の子を叱った。
「凪咲(なぎさ)、勝手に歩き回ったらだめって言ったでしょう」

「あ、ママぁ」
　凪咲と呼ばれたその子は、叱られているのに、にこにことその女の人のそばに寄り添った。

「チューリップ、綺麗だよ。ほら、見て」
「もう、こっちに来てはだめなの」そう言って、女の子の手を取った。
　
　大きな目がとてもよく似ていると思った。

「ばいばい」
　凪咲は母親に手を引かれ、裏庭のほうに歩いていった。

　凪咲の母は柴田家の住み込み家政婦として働くことになり、一人娘の凪咲とともに、その日から離れで暮らしはじめた。

　凪咲の父親はいなかった。
　離婚したのか、死別なのか、それとも、もともといなかったのか、大翔は知らない。
　けれど、柴田家に来るまで、相当、苦労していたようだ。
　大翔の母の昔の知り合いからの紹介で、働くことになったらしい。

　凪咲は、なかなか気の強い、ひるまない性格らしく、なんど母親に叱られても、学校から帰ると母屋にやってきて、大翔に「遊ぼう」と声をかけてきた。

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