極秘の懐妊なのに、クールな敏腕CEOは激愛本能で絡めとる
 自分より少し背の高い日本人に詰め寄られ、黒髪の男性は胸の前で両手を軽く上げた。
『ご、誤解だよ。本当にただ親切で声をかけただけだ。強引にして悪かったよ』
 彼はそう言うと、そそくさと地下鉄の駅の中へと消えていった。
 早朝から火事に遭ったり、予定より早くチェックアウトをしなければいけなくなったり、強引な外国人男性に絡まれたり……。
 もう心がぽっきり折れてしまいそうだ。
「大丈夫でしたか?」
 クールな紳士は、しかし今は心配そうな表情で二葉の顔を見た。
 気遣いと優しさが滲んだ彼の表情に、ふっと安心感を覚えた。その瞬間、全身から力が抜ける。思わずふらつきそうになったところを、男性が腰に手を回して支えてくれた。
「大丈夫ではなかったみたいですね」
「あ、すみません。今日は朝からいろいろあって……。あの、助けてくださってありがとうございました」
「さっきの男以外にも嫌な目に遭ったんですか?」
 男性の表情が曇り、二葉はゆっくりと首を横に振る。
「嫌な目というより……大変な目に遭いました。明後日の朝まで宿泊する予定だったフラットが、火事になってしまって……」
 二葉は次の宿泊先に問い合わせてみたが断られてしまったこと、その直後にさっきの男性に声をかけられたことを説明した。
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