極秘の懐妊なのに、クールな敏腕CEOは激愛本能で絡めとる
「それは本当に大変な目に遭ったんですね」
 男性はいたわりのこもった口調で言った。
「はい。〝泣きっ面に蜂〟って諺の意味を実感しています」
 二葉は小さく舌を出したが、気が緩んだせいか、急にお腹がひもじそうな音を立てた。
「あっ」
 顔を真っ赤にして彼から離れようとしたが、またよろけたのだと思われたらしく、彼の方にぐっと引き寄せられた。
「大丈夫ですか?」
「あ、えっと、これはその……朝ご飯を食べてからなにも食べてなくて……ほんとにすみません……」
 二葉は両手でお腹を押さえながら小声で言った。左手の腕時計をチラリと見ると、時刻は午後二時半だ。朝、カフェでサンドイッチを食べただけだから、お腹が空いていても当然だ。
 二葉が恥ずかしさのあまりうつむいたら、低く穏やかな声が降ってきた。
「申し遅れましたが、大槻(おおつき)奏斗(かなと)と言います。よかったら一緒にアフタヌーンティーでもいかがですか? ここから近い通りに雰囲気のいいカフェがあります。カフェで座って落ち着いてから、ネットでホテルを探すといいのでは?」
 アフタヌーンティーと聞いて、またもやお腹が鳴りそうになり、二葉は腹筋に力を入れた。
 一人で過ごしていた二葉は、実は本格的なアフタヌーンティーをまだ体験していない。
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