極秘の懐妊なのに、クールな敏腕CEOは激愛本能で絡めとる
『大丈夫ですか?』
 男性が怪訝そうに眉を寄せて英語で尋ねたので、二葉は一度瞬きをした。
 黒髪のストレートロングヘアに濃い茶色の目をした二葉は、日本人にしか見えないらしく、ロンドンにいても日本人に日本語で道を訊かれるくらいなのだ。
 けれど、彼が日本人ではないかもしれないと考えて、英語で答える。
『あ、はい。ありがとうございます』
 男性は二葉を手伝って、落ちた本を拾ってくれる。
 男性と二葉が同じ本に手を伸ばし、指先が軽く触れた。
『あっ、すみません』
 二葉は反射的に手を引っ込めた。
『いえ、こちらこそ』
 男性は動じる様子もなく淡々と言って、その本を手に取った。二葉は最後の一冊、裏表紙が上になっている本を拾う。立ち上がって表紙を上に向けた瞬間、愕然とした。
 なんと表紙の真ん中に、縦に折れ目がついていたのだ!
 湖畔にたたずむ中世の古城が水彩画風に描かれた神秘的な表紙で、ストーリーにも惹かれたが、なによりその表紙絵を気に入って買ったものなのに。
(あーあ、どうしてもっと注意しなかったんだろう……)
 自分のドジさに、二葉はがっくりと肩を落とした。
『どうぞ』
 男性は拾い上げた本を差し出したが、二葉の様子を見て手を止めた。
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