極秘の懐妊なのに、クールな敏腕CEOは激愛本能で絡めとる
 奏斗は息を吐いてグラスに口をつけた。
(あんなふうに人を好きになったのは初めてだったからか……彼女のことになると余裕がなくなってしまう)
 本が散らばったから、親切心で拾うのを手伝った。
 紙袋が破れて困っていたから、宣伝用のエコバッグを渡した。
 必要以上に親しくなって、外見や肩書きに惚れられたら面倒だから、それだけにとどめておいたのに。
 二度目に会ったとき、なぜだか放っておけなくなった。彼女といると自然な自分でいられて、言葉を交わせば交わすほど気持ちが通じ合って、抗えない波のように恋に呑まれた。
 こんなに恋い焦がれるくらいなら、いっそのことロンドン支社でも作ってロンドンに留まればよかった。
 そんなことを考えたが、今はまだ海外に支社を作る段階ではない。無計画に事業を拡大したら、会社そのものが危うくなる。
 同じように夢を追うからこそわかり合えたのに、あっさり夢をねじ曲げてしまっては、彼女が恋してくれた男ではなくなってしまう。
 奏斗はカウンターに肘をついて額を押さえた。
 功成は見たことがないくらい苦悩している友人の姿を見て、少し考えてから言う。
< 72 / 204 >

この作品をシェア

pagetop