君に恋した、忘れられない夏



「ひまちゃん、今日も外に出かけるのかい?」


「あ、おばあちゃん」




靴を履いていると、後ろからおばあちゃんがペットボトルを持ってやってきた。




「こっちに来てから毎日楽しそうだねぇ。田舎だから楽しいものなんてあんまりないけど、ひまちゃんが楽しそうでおばあちゃんも嬉しいよ。外暑いから、これ持っていきな」


「ありがと。うん、楽しいよ」




昴に再会してからあんまり楽しくなかった毎日が楽しくて、その気持ちがなんだか懐かしくて、本当にこのまま時間が止まればいいのにと思った。



いつからかなんて覚えてないけど、私の名前を呼ぶ声も、優しい笑顔も、温かい手も、昴の全部が好きだった。


会わなくなってからもふと考えるのは昴のことばかりで、夏が来るたびに胸が苦しくなって、そんなに辛い思いをするくらいなら昴になんてもう二度と会わないと決めていたのに。


頭の中にはいつも昴がいて、昴は私の全てだ。


昴のいない人生なんて嫌だった。だからいないとわかってても、この町に来てしまった。




「あ、陽葵」




そんな昴がいまは目の前にいる。
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