君に恋した、忘れられない夏
「…すみません、私、行くとこが…」




なんて声をかけたらいいかわからないという感じだった昴のお母さんが、急に帰る私に戸惑いながらも下まで見送ってくれた。


行くところはたった一つ。



私はバカだ。何も知らないで。昴一人苦しめて。


どうして昴を信じてあの場所で待ち続けなかったんだろう。


どうして昴を探そうとしなかったんだろう。



昴は約束を破ったわけじゃない。展望台に来なかったんじゃなくて、来れなかったんだ。


病気が一度良くなってから毎年待ち続けてくれた昴は何を思っていた?どんな思いで病気と戦っていたの?



“陽葵に会いたい”



三枚目に書かれた文字は昴の涙で少しだけ滲んでいた。




「はあはあ…っ」




階段の前で立ち止まって一度呼吸を整える。


どうしよう。もう昴がいなかったら。


何も伝えられないままお別れなんて、嫌だ。お願い、お願い…。



祈りながらゆっくり階段を上がっていくと、いつものベンチに座っていたのは、私が来ることがわかっていたかのように困ったように笑う昴だった。
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