ゴーストと呼ばれた地味な令嬢は逆行して悪女となって派手に返り咲く〜クロエは振り子を二度揺らす〜
「こら、コートニー。はしたないですよ」
クロエの思考が固まっていると、今度は父親と継母が仲良く手繋ぎをしてやって来た。
「えぇ~っ! だって、お姫様みたいな素敵なお部屋なんだもん! あたし、こっちの部屋にするわ!」と、コートニーはまるで自分の部屋かのようにとんとソファーに腰掛る。
「コートニー……ここはお姉様の部屋なんだぞ。お前にもお姫様のような可愛らしい部屋があるじゃないか。パリステラ侯爵家の令嬢の部屋なんて、王宮の次に豪華なのだよ」
「あんなの嫌! だって、こっちのほうが広いし、素敵だわ! ね、お父様、お願い?」
「ここはクロエの部屋だからさすがにあげられないよ。今回は我慢してくれ。な?」
「嫌ぁっ!!」
コートニーはびぃびぃと大声を出して泣きながら、ソファーから飛び上がって父親の胸に縋り付いた。ロバートは困ったように娘を宥めている。
侯爵令嬢の上品な部屋に似つかわしくないその混沌とした光景は、貴族は感情を表に出してはならないと教育されたクロエにとって酷く衝撃的だった。
クロエは目を白黒させて、茫然自失と立ち尽くす。
(この子はなにを言っているの……?)
他人の物を強請るなんて常識ではまずあり得ないし、そもそもノックもせずに人の部屋に入り込んで、あまつさえ人の私物を物色……?
あまりの嫌悪感に、ふつふつと鳥肌が立って寒気がした。