ゴーストと呼ばれた地味な令嬢は逆行して悪女となって派手に返り咲く〜クロエは振り子を二度揺らす〜
「あら……?」
そのとき、コートニーが目ざとくクロエの胸元に光るものを見つけた。それは細い銀色の鎖だった。
「なぁに、これ?」
はっとしたクロエが慌てて胸元を隠そうとしても、遅かった。
異母妹は彼女の手を押しのけて、鎖を引っ張った。
「これは……ペンデュラム?」
それは、先端が尖った八角錐の小さな青黒い石のペンダントだった。
あんなに虹色に輝いていたクリスタルは、不思議にもどんどん黒く変色していって、今では路端の石ころのような濁った色になっていたのだ。
「返して! それはお母様の形見なのっ!」
クロエは奪い返そうと必死で手を伸ばすが、クリスが手に湯をかけて阻止をした。
「形見ぃ~?」と、母娘はその石をためつすがめつ眺める。
その粗末な石は、侯爵夫人が持つような代物ではないように思えた。
「おっかしい~! これが形見だって? こんな石ころが!」とコートニー。
「あら、もしかしたら不貞相手の下男から貰ったものじゃなくて? だから後生大事にして娘にまで……ぷっ」クリスは吹き出す。「あっ、そうか! 娘と父親を繋げる唯一の物だから? ふふふっ」
「たしかに卑しい男じゃあ宝石なんて買えないわよね」
「で、石ころ!」
母娘はケラケラと腹を抱えた。
にわかにクロエの胸に怒りの炎が宿る。大切な母親の形見を奪われて、あまつさえ侮辱までされて……許せなかった。