ゴーストと呼ばれた地味な令嬢は逆行して悪女となって派手に返り咲く〜クロエは振り子を二度揺らす〜
「返してっ!!」
猛然とクロエはコートニーに飛び掛かった。
そしてペンダントを奪い返そうと躍起になって腕を掴む。抵抗されて、揉み合いが始まった。
不意の攻撃に虚を衝かれて異母妹は一瞬だけ不利になるが、クリスの命令でメイドたちが一斉に加勢をして、みるみる間に姉が床にねじ伏せられた。
コートニーは数拍肩で息をしてから、
「なんなのよ、あんたっ! あたしはこの国を代表する魔導士なのよっ! 売女の娘のくせに、生意気なっ!!」
握ってあったペンダントを思い切り床に叩きつけた。
カン――と高い音がして、先端が欠けた。
「あぁっ! お母様っ!」
クロエは、叫びながらメイドたちの腕の中でもがくが、身動ぎ一つできない。
コートニーは顔を真っ赤にさせて落ちたペンダントのもとへ向かい、憎々しそうにぐしゃりと踏み付けた。それから、ぐりぐりと力を込めて床に押し付ける。
「止めてっ!」
彼女が足をどけると、ペンダントは真っ二つに割れていた。
「そんなっ……」
クロエはよろよろと跪く。全身が脱力したように、うなだれた。
母の形見が壊れてしまった。それは、ぎりぎりで保っていた細い糸が切れたみたいに、儚く呆気ないものだった。
同時に、クロエの心も暗く濁っていく。