ゴーストと呼ばれた地味な令嬢は逆行して悪女となって派手に返り咲く〜クロエは振り子を二度揺らす〜
「もう……いい加減にして…………っ!」
ついに、限界が来た。
ずっと心の底に押し込んでいた苦しみが、堰を切ったように溢れ出して、彼女の喉から唸るような声を絞り出す。
にわかに指先が氷のように冷たくなって、ガタガタと小刻みに震える。
呼吸が荒ぶる。刹那、背中に悪寒が走って、ざらざらした肌が波立って、でも体内は燃えるように熱くて。
もう、うんざり。もう、嫌。もう、限界。
父も、継母も、異母妹も、全部、全部、全部――……。
「私が……なにをしたというの!? いつもっ……いつもいつもいつもっ……私を……なんでっ…………!?」
「はぁ?」と、コートニーは眉を顰める。
「もう、放っておいてよっ!! 私のことなんて構わないでっ!!」
クロエの訴えかけるような金切り声が辺りに響く。
途端に水を打ったように静まり返って、彼女の周囲からぐるりとねちっこい視線が注がれた。
「………………」
「………………」
「………………」
しばらくして、コートニーの嘲りの混じった調子の良い声音が、沈黙を破った。
「ねぇ、聞いたぁ~? 放っておいて、だってぇ~!」
「えぇ、しっかり聞こえたわ。クロエは自分のことなんて放置して欲しいのね?」と、クリスも強く同意するように頷く。
「…………」
クロエは目を見張る。急激に後悔の波が襲って来た。
衝動的に胸に抱えている泥を吐き出したものの、この母娘には情なんて殊勝なものを持ち合わせていないことに、今更気付いたのだ。
嫌な予感が脳裏に迫る。
すると継母がにっこりと妖艶な笑みを浮かべた。