ゴーストと呼ばれた地味な令嬢は逆行して悪女となって派手に返り咲く〜クロエは振り子を二度揺らす〜
「いいわ、分かったわ。そんなに構わないで欲しいならそうしましょう! ――皆、聞いてちょうだい? これからはクロエには二度とかかずらうことのないように」
「っ……!」
「なぁに? その不満げな顔は。だって、クロエ自身がそう言っているのだから、母として許可してあげるだけよ? 可愛い娘の願いは叶えてあげたいもの」
「そうね、お母様。お異母姉様が希望しているんですもの! 仕方ないわぁ!」
「じゃ、決定ね。屋敷の者は金輪際クロエに関わることのないように。干渉は厳禁よ。好きなことをやらせなさい。夜遊びも、男遊びも、どうぞご自由に」
「そんなことっ――」
母娘の口撃は、クロエが反論する前に怒涛の如く続いていく。
「良かったわね、お異母姉様。これからは好きに過ごしていいんですって!」コートニーはにやりと口元を歪ませる。「あたしたち家族からも、使用人たちからも束縛されずに、幾人もの男の上を渡り歩くといいわ。身体が武器のお異母姉様なら、親切にしてくださる殿方もたくさんいらっしゃるでしょう?」
「なにを――」
「旦那様にはあたくしから伝えておくわ。じゃ、今この瞬間からお望み通り放っておくわね。この無様な粗相も自分で片付けなさい」
「皆、分かってるわね? 掃除道具もお異母姉様に自分で取りに行かせるのよ。くれぐれも、邪魔をしないように。だって、構わないでって言っているんですものね」
クリスとコートニーは、愉快そうに高笑いをしながら去って行った。
彼女らの腰巾着のメイドたちも後に続く。
残された使用人たちは、はじめはおろおろと二人とクロエを交互に見ていたが、やがて何事もなかったかのようにそれぞれの仕事に戻り始めた。
クロエはしばらく茫然自失と立ち尽くしていたが、濡れた身体が酷く凍えるので、仕方なく使用人の利用している掃除道具置き場へと向かったのだった。
それからしばらくたたないうちに、彼女はゴースト――幽霊令嬢だと揶揄されるようになったのだ。