ゴーストと呼ばれた地味な令嬢は逆行して悪女となって派手に返り咲く〜クロエは振り子を二度揺らす〜
その後も、屋敷の住人たちはクロエのことは完全に存在しない者として扱っているようで、彼女は一人で自分の身の回りの世話をしなければならなかった。
洗顔も湯浴みも井戸の染みるような冷たい水、掃除も倉庫へ道具を取りに行って、やり方も分からずに、メイドたちの姿を見様見真似で取り掛かる。
洗濯も自分の手を冷水に突っ込んで、じゃぶじゃぶと洗った。
もちろんドレスや下着は新しいものを購入するのも許されず、古びたものを繰り返し着用して、毛玉や汚れの目立つみすぼらしい姿にどんどん変化していった。
身体の手入れも行き届かず、荒れてささくれ立った指先と、自らの手で不器用に三編みにした艶のない髪がかさかさと揺れていた。
(私は……多くの人に支えられて生きてきたのね……)
クロエは、改めて自身の生まれてきた環境と、屋敷の者たちに感謝の念を抱いた。これまで当然だと思っていたことも、側で多くの人々が忖度して動いてくれたお陰なのだと。
この時は彼女はまだ、誰からも存在を認識されず、誰からも相手にされないという真の恐ろしさが分かっていなかったのだ。