ゴーストと呼ばれた地味な令嬢は逆行して悪女となって派手に返り咲く〜クロエは振り子を二度揺らす〜
一番の問題は食事だった。
これまでは一日一食、晩にコートニーが持ってくる「餌」でなんとか生き延びていた。
だが、今はそれも、もうない。自身で調達をしなければならないのだ。
最初は厨房へ行って、余り物でいいのでなにか食べる物をくれないかと交渉した。
しかし……返事はない。
何度か声を掛けても料理人は黙々と調理を続けている。ぐつぐつと煮えたぎるスープの香りが鼻腔をくすぐって、にわかに空腹が襲った。
だが、さすがに勝手に食材を持ち出すのは良心が咎めるので、クロエは諦めて庭に出た。
侯爵家の庭は広い。しっかりと管理された薔薇園や植栽、そして自然に近い状態を保たれた場所もあった。
彼女はそこから雑草を取って、当面の食料にしようと意気込んで向かったのだが――、
「…………」
生い茂る草木の前で茫然自失と立ち尽くす。どの植物が食べられるのか、それ以前にどの植物は取ったらいけなくれ、どの種類が雑草なのか……彼女には皆目見当がつかなかった。
手当り次第に採取して庭師に迷惑をかけることなんて、彼女の性格ではできなかった。
仕方なく雑草も諦め――クロエは意を決して、厨房の捨てる予定の屑野菜を……ひっそりと、いただくことにしたのだ。