ゴーストと呼ばれた地味な令嬢は逆行して悪女となって派手に返り咲く〜クロエは振り子を二度揺らす〜
冷たい夜が来た。
クロエはひっそりと屋敷を歩く。
ゴミが入れられたバケツは、厨房の裏の扉から出た場所にあった。金属製の大きめのバケツが数個並べてあって、どれも蓋の上に重石が置かれていた。
クロエはその重石の一つに手を伸ばすが、躊躇してぴたりと手を止める。
罪悪感と羞恥心があった。これから自分がすることは、いくらゴミとは言え無断で盗む行為になる。
それに……浮浪者のようにゴミを漁るなんて恥ずかしかった。
誰かに見られたらどうしよう。お継母様の耳に入ったら「侯爵令嬢として情けない」とまた強く打たれるだろうか。
異母妹が知ったら……スコットに喋るだろうか。
暗澹とした考えばかりが頭を過る。
しかし、彼女の空腹は限界に近かった。このままでは、倒れてしまいそうなくらいに、辛かったのだ。
「っ……!」
クロエは、ままよと勢いよく重石を持ち上げた。
蓋を開けると固く結ばれた麻袋があり、むわりと悪臭が漂っていた。彼女はその固く閉じた口をおそるおそる開けた。
そして中身を……口にした。息を止めて、ほとんど咀嚼しないで、喉に下す。
じわりと涙が出た。
一生忘れられない、最悪な夜だった。