ゴーストと呼ばれた地味な令嬢は逆行して悪女となって派手に返り咲く〜クロエは振り子を二度揺らす〜


 それからもクロエの呼びかけに応える者は現れず、彼女は毎日一人きりで、なにもかもを請け負っていた。
 朝の洗顔も、着替えも、湯浴みも。掃除や洗濯……道具の持ち運びでさえ。

 作業中に屋敷の人間たちとすれ違っても、彼らの視線は常にまっすぐで、クロエのことなんて気にしていない様子だった。彼らとのあいだには、挨拶も会話もない。


 屋敷の者たちは、クリスから「クロエと絶対に関わらないように。もし一言でも口を聞いたら、問答無用で屋敷から叩き出す。紹介状も書かない」と、きっぱりと宣言されていた。

 中には、クロエのことを不憫に思う者もいくらかはいたが、彼らも悪魔のように恐ろしい侯爵夫人には逆らえず、彼女のことを徹底的に無視していたのだった。

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