ゴーストと呼ばれた地味な令嬢は逆行して悪女となって派手に返り咲く〜クロエは振り子を二度揺らす〜
クロエはまたたく間に痩せてしまって、病人のような青白い顔に、ぼさぼさの髪の毛が痛々しかった。
夜な夜な食べ物を求めてゴミ箱を漁る姿は、やがて屋敷の者に見つかって、コートニーを中心に嘲笑混じりに「幽霊令嬢」「ゴーストが出た」……などと、面白おかしく語られるようになったのだった。
骨のようにがりがりに痩せ細って、そろそろと闇夜を徘徊する姿は……まさに、幽霊そのものだった。
誰も自分と会話をしてくれない。相手にさえしてくれない。
その締め付けられるような孤独は、徐々にクロエの精神を蝕んでいっていた。
確かにここに存在しているのに、ここに居ない。自分のか細い声は、乾いた空気に無慈悲にも掻き消される。
(私は……何者なの? 今、本当に生きているの? 彼らの言う通りに、幽霊になって彷徨っているの?)
暗い思考が全てを支配していく。
だんだんと、頭がおかしくなっていく気がして……自分が自分ではなくなっていく気がして、底冷えするような恐怖を覚えた。
私を見て欲しい。自分の声に答えて欲しい。
見て。せめて、顔を向けて。目を合わせて。
見て、見て――……。
それもこれも、自分が魔法が使えないせいだろうか。魔法が使えない自分が悪いのだろうか。自分が無能だから、お母様まで侮辱されるのだろうか。
(だから……だから、早く、魔法を…………!)
クロエが縋るものは、もう魔法しかなかった。
取り憑かれたように、毎日ひねもす魔法の特訓をした。
だが、彼女の願いが叶う日は、いつまで待っても、やって来ない。